「我に奇策あるに非(あら)ず 唯(ただ)正直あるのみ」。日本銀行を設立し、首相にも2度就いた明治時代の政治家、松方正義は正攻法が信条だった。国民の理解を得なければならない難題であればあるほど、政府の望ましい姿と言える
▼参院法務委員会の採決をすっ飛ばす「奇策」でもって「共謀罪」法成立にこぎ着けた安倍政権は、その対極にある。「中間報告」は過去にもあるが、野党議員が委員長で、採決に応じない場合がほとんど。今回のように与党が委員長のケースは異例中の異例だ
▼政府は、一般人は捜査・処罰の対象外としているが、「組織的犯罪集団」に関わりのある「周辺者」は対象になる
▼結局、捜査してみないと一般人か周辺者か判別できないはずで、対象は限定されないと考えるのが自然だろう
▼委員会での審議時間は衆院の30時間25分に対し、参院は17時間50分にとどまり、採決の目安とされる30時間に遠く及ばなかった。国民の理解を得るよりも、批判をかわすため国会を延長せずに閉じたいという本音が見え隠れする
▼成立と軌を一にするように、加計(かけ)学園問題を巡る文部科学省の再調査結果が公表された。政府にとって都合の悪いニュースは、別の大きなニュースにぶつけ、少しでも世間の目をそらす。「奇策」の裏にそんな意図も働いていないか勘繰ってしまう。(西江昭吾)