苦労話も明るい口調でさらりと話す。好きな仕事を長年続けることができたのは「がちまやーだからかね」と笑う。そんな余裕がたたき上げの商売人の風格を感じさせた
▼19日に亡くなった水産物加工・冷凍食品卸売業のホクガン創業者の上原武市さん(享年82)。数年前に取材した際、島豆腐やモズクなど沖縄の食材を世界に広めたいと、熱っぽく語った
▼小学6年のとき、喜界島から家族と糸満市に。那覇のかまぼこ卸店へでっち奉公に出て、自転車でかまぼこを配達した。重労働の中のひそかな楽しみは、配達前に食べるかまぼこに使った魚の皮のマース煮。「あれは絶品だった」。食を通して仕事の楽しさも覚えた
▼米穀卸業や冷蔵倉庫業などを手掛けた。復帰後、食の欧米化が進む中、昔ながらの沖縄の家庭料理に着目。自社製品の開発に力を入れ、県民にもなじみが深い「アンマー印」が誕生した
▼「アンマー(母親)は子どもたちのために健康でおいしいものを食べさせてくれる。そのおかげで今がある」。沖縄の良さを全国に広めるため、多彩な商品開発を進めた原点はそんな思いから
▼アンマーはローマ字表記になり、海外展開への模索も続けてきた。「沖縄にはまだまだいい食材がある」。少年時代に抱いた食へのこだわりと挑戦は、県内産業界に引き継がれるだろう。(赤嶺由紀子)