都内であった試写会で、沖縄戦を描いた米映画「ハクソー・リッジ」を見た。武器を持たない米衛生兵が、浦添市の前田高地で両国の兵士75人の命を救った実話を基にしている

▼目を背けたくなる生々しい戦闘シーンが続くが、あえて極限を忠実に描くことで、戦争の愚かさを問い掛けていると思いたい。衛生兵の勇気と献身に焦点を当てた物語は、観客の共感を呼ぶだろう

▼映画には住民の姿は出てこない。だが実際には、国家の暴走で有無を言わさず戦争に巻き込まれ、命を落とした多数の無辜(むこ)の民がいる

▼旧日本軍は当時、全県民が兵隊になることを求めた。まともな訓練さえ受けずに防衛召集で次々と戦場に駆り出された。犠牲者の総数は軍人を上回る。沖縄は本土決戦を遅らせるための「捨て石」だった

▼今年も慰霊の日を迎えた。客観的な事実より、感情的な主張がはびこる「ポスト真実」の時代。「沖縄」を巡る史実も激しい風当たりにさらされている

▼多くの人々の目に触れるであろうハリウッド作品を通じて、スクリーンには映し出されない沖縄戦の実相に思いを巡らせてほしい。米国側からみた心温まるヒューマン・ストーリーだけではなく、そこに暮らす人々の目線で事象の背景を捉えてほしい。試写会場を出て、すぐ地下鉄に乗らず、人混みを歩きながら、そう願った。(西江昭吾)