石川文洋さんは常に生と死の瀬戸際に身を置いてきた。戦場を生きただけではなく、病でも倒れて死の淵を彷徨(さまよ)った。だが、辛(つら)い現状の中からも必ず生を発見し、伝え、希望を見いだしていく。本書はインタビュー形式で、優しく柔らかな口調で文洋さんが自身の半生の軌跡を語り、カメラマンとしての仕事、戦争の現場、そして闘病と復活、現在の精力的な活動までをたどることができる。

旅する心のつくりかた(サンポスト・1620円)

 文洋さんの人生は、第2次世界大戦以降、世界中で勃発した戦いの歴史と並行する。ベトナム戦争に始まり、カンボジア、ボスニア、アフガニスタンなど世界各地の戦場を取材し、多くの書物に残した。その原動力は「現場を知りたいということ」だという。

 母親が逃げ遅れて撃たれ、なすすべなく泣く子どもたちや、流れ弾に当たり倒れる市井の人の姿を写す。一方で、若い兵士のあどけない表情、木陰で読書する姿なども撮影している。写真の人々や兵士たちがこの戦争で生き延びられたのか分からないが、犠牲を受ける側と攻撃する側の双方から、国の戦争に巻き込まれていく人々の痛みと悲しみを想像することができる。

 私は2015年、文洋さんと行くベトナムツアーに参加し、ハノイからフエ、ホーチミンまで旅をした。文洋さんは戦時の悲惨な状況や当時の生活などを穏やかに、そして生々しく話してくれた。本書でも「軍事力=抑止力と考えている人は、過去や現在の戦争から何も学んでいない」と強調する。実際に戦争の惨状を見て、人間の残酷さを知る文洋さんが語る非戦の言葉には重みがある。九死に一生を得る経験を重ね、命を奪われた人々と仲間を目前で見ているからこそ、「生きる」ことへの尊さと希望が湧き上がるのだ。

 ところで「旅する心のつくりかた」というタイトルに倣えば、私は文洋さんと旅する中で「訪ねた場所で見て感じた痛みと傷の歴史を、時と場所を越えていかに共有するか」というテーマをつくった。実際の旅は困難でも、本書を開いて文洋さんと共に旅に出掛ければ、あなた自身のテーマを見つけることができるかもしれない。(仲宗根香織・写真家)

 【プロフィール】いしかわ・ぶんよう 1938年那覇市生まれ。65~68年、ベトナムに滞在し従軍取材。69~84年朝日新聞社。84年からフリー。日本写真協会年度賞。「戦場カメラマン」など著書多数▽おかの・あきこ 千葉県生まれ。土本真紀事務所で制作・編集・執筆に従事