[沖縄タイムス SDGs企画] [タイムスもやってみた](1)月経痛疑似体験マシン
多くの女性が悩まされている月経痛。その痛みを疑似体験できる装置を奈良女子大学(奈良市)と甲南大学(神戸市)が共同開発した。男性にとって経験のない「つらさ」とは、どのようなものなのか。沖縄タイムス関西支社の具志堅毅支社長(58)が奈良女子大学の研究室を訪ね、体感した。
手のひらサイズの電極パッドを2枚、おへその下の腹直筋に貼って準備完了。電極パッドを両手で軽く押さえてスイッチを入れる。さほど緊張せず待っていると突然、電気の刺激が流れ、ギューンと腹筋が締め付けられた。思わずうなってしまったが、なんとか耐えた。
電気の強度設定は40%。今度は60%に上げた。すると、腰が砕けるように前方に引っ張られ、腸がねじ込まれる。「歩くことも困難な月経痛はこんなもんじゃないはず」。そう思い、70%の強度をリクエスト。想像以上だった。腹筋が収縮し、けいれんしたような感覚。一瞬で体はよろけ、額には冷や汗がにじみ出る。数秒ごとに押し寄せる強い刺激で、顔と体はこわばり、まるで拷問を受けているようだ。経験したことのない強烈な苦しさに、思わずギブアップした。
聞けば、多くの女性は80%以上の強さでも「普段の月経痛以下」と評価したという。個人差はあるにせよ、日常生活に支障を来すような痛みが毎月あり、症状が2~3日続く上、頭痛や腰痛、吐き気、倦(けん)怠(たい)感を併発する-。月経痛に悩む女性の厳しい現実を身をもって感じた。いかに不安にさらされているかがよく分かる。
恥ずかしながら、これまで月経痛や更年期障害などの症状を知らず、女性の健康問題を深く考えることも向き合うこともしてこなかった。今回の疑似体験の依頼を受けた時も正直、気が重かったし、これまで避けてきたという少し後ろめたい気持ちもあった。だが一方で、よく耳にする月経痛とはどんな痛みなのか、との思いもあった。
何事も経験しないと分からないことは多いが、今回体験して初めて、女性特有の「不調」や「不安」に向き合う大切さを痛感した。
今なら、体調不良を抱える同僚にちょっとした声かけや目配りができそうな気がする。体調が悪化しないよう、ゆとりあるスケジュールを組んだり、チームを組んで互いに仕事をフォローしたり。きつい症状であれば病院受診を促したい。月経痛や体調不良は人それぞれ症状が違い、不安や悩みを言葉で伝えたり、逆に聞き出したりすることは容易ではないだろうが、何か配慮できないか-。考えは巡る。
来年、疑似体験装置はベンチャー企業から製品化される計画があるという。より多くの人が体験できる機会が増えれば、女性の「つらさ」に対する男女の認識の差が少しずつ縮まっていくのではないか。女性が安心して働ける職場環境に向けて、当事者の不調や不快を自分ごととして考えたい。
(関西支社長・具志堅毅)
学生発案の装置開発 佐藤克成さん(奈良女子大准教授)に聞く
月経痛を疑似体験する装置を発案したのは、2019年、甲南大学の学生だった麻田千尋さん(24)。開発当初から麻田さんらと面識があり、大学院で指導教員だった奈良女子大学の佐藤克成准教授に、開発の経緯や装置の仕組みを聞いた。
(聞き手=社会部・普久原茜)
-「月経痛を体験する機械」は面白いアイデアだ。
「麻田さんがVR(バーチャルリアリティー)のコンテストに出展する作品に『女性の視点を生かしたい』と考え、月経痛の疑似体験装置を構想したことが始まり。言葉では伝えにくい月経痛のつらさを体感で伝えられるよう、男性も含めたチームで研究を重ね、痛みの再現実験を繰り返した」
「腹部に貼り付けた電極パッドに電気を流し、月経痛に似た痛みを再現する。痛みは強まったり弱まったりと波があり、予測できない腹痛にもだえる人もいれば、痛みをほとんど感じない人もいる」
-実際に女性が感じている痛みをどの程度、再現できたのか。
「機械は体の表面からの電気刺激で腹筋の辺りに痛みを発生させるため、実際の月経痛のように、子宮付近の体の内側から発生する痛みを完全には再現できない。だが、痛みの強さや不定期に湧き起こる不快感を感じることはできる。そのことで、月経に苦しむ女性を理解する助けとなり、社会的意義があると考える」
「これまでに100人近くが体験し、強度を調整するなどの改良を重ねてきた。同じ強さでも人によって痛みの感じ方にかなり個人差があることを考慮し、強度を一律にせず強弱を設定できるようにした」
-痛みを与える装置、というと二の足を踏む人もいそうだ。
「だからこそ、麻田さんは強制的ではなく自発的に体験してもらうことが大事だと話していた。体験型のVRシステムであることを生かし、最初は興味本位であっても、まずは体験してもらうことが月経への関心につながることになる」
「男性に限らず、女性でも痛みの感じ方には個人差がある。体験を通して、多様性への理解が深まればいい。最近は企業研修などで貸し出し依頼の問い合わせもあり、ベンチャー企業と連携しながら製品化を模索している」