中東の過激派組織「イスラム国」の残虐な行為がまた、あらわになった。「イスラム国」が、拘束していたヨルダン軍パイロットの「殺害」映像をインターネット上に公開した。
ヨルダン当局は報復措置として、自国が収監し、「イスラム国」から釈放を求められていた死刑囚の死刑を執行した。
憎しみが憎しみを生み、報復の連鎖へとつながる。その果てを想像すると、深い絶望を感じざるを得ない。
何とかして暴力や憎しみの連鎖を断ち切ることはできないか。こう感じている人たちに広がっているメッセージがある。「イスラム国」に殺害されたとみられるフリージャーナリスト後藤健二さん(47)が、過去にツイッターで発言(ツイート)した内容だ。
「目を閉じて、じっと我慢。怒ったら、怒鳴ったら、終わり。それは祈りに近い。憎むは人の業にあらず、裁きは神の領域。-そう教えてくれたのはアラブの兄弟たちだった」。2010年9月に書き込まれたこの発言は、インターネット上で急激に拡散され続けている。
確かに「イスラム国」の行為は断じて許せない。ヨルダンの人々の悲しみや怒りは察するに余りある。ただ、報復感情から暴力の応酬を重ねていては、事態はより一層激化するばかりだ。
憎しみの連鎖は後藤さんの思うところではない。市民の目線で取材を続けてきた後藤さんの思いをかみしめたい。
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紛争の最大の被害者は、いつの時代も現地に暮らす普通の人々だ。だが、その姿はなかなか見えにくい。
後藤さんはジャーナリストとして、戦禍に巻き込まれた人々、とりわけ子どもたちに目を向け、報道や講演活動などを通し伝えてきた。
昨年3月の報告会では、戦闘状態が続くシリア・アレッポの状況を訴えた。
「たる爆弾」で建物が破壊された街。電気もない家で暮らす13歳の少女は、絵を描くのが好きだと語り、「将来画家になりたい。世界中の人たちの気持ちを表現したい」と夢を明かしたという。
身の危険におびえ、耐え難い困難の中でも希望を失わずに生きる子どもたちがいる。後藤さんの報告を通し、その支援に関心を寄せる人も少なくなかったはずだ。
後藤さんが伝えたかったことを考えよう。思いを共有しよう-。国内外のジャーナリスト仲間らが次々と声を上げ、反響が広がっている。
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外務省は昨年、後藤さんの「イスラム国」行きを察知した後、3度にわたり計画の自粛を求めたという。それでも渡航に踏み切ったことに対し、自民党の高村正彦副総裁は「どんなに使命感が高くても、真の勇気ではなく蛮勇と言わざるを得ない」と記者団に語った。
しかし、ジャーナリストの行動・報道によって、私たちはそこで何が起きているのか知ることができる。どのような支援が必要かも分かる。
安全確保は前提だが、事実に向き合うジャーナリストの姿勢を否定すべきではない。