過日、2015年10月に実施された国勢調査の最終的な調査結果が公表されました。沖縄県の完全失業率は6.3%で前回調査時よりも4.7ポイント改善したものの、全国平均の4.2%には及ばず、全国最下位も脱出できませんでした。しかし、沖縄県の就業者数の伸び率は全国トップになるなど雇用環境は改善傾向が続いています。
ただ、県内においても労働力人口(※15歳以上の人口のうち就業者<休業者も含む>と失業者の合計)は減少しており、これまで以上に人手不足が深刻化すると考えられます。企業が利益を確保しつつ、人材を定着させていくためには…。各種調査を参考にしつつ、ヒントとなるポイントをご紹介したいと思います。
就業者数の増加率は全国トップだが…
国勢調査によると、沖縄県の2015年の就業者数は589,634人となっており、2010年と比較して1.9%(10,996人)の増加となっています。都道府県別にみても就業者数の増加率は全国トップです。
一方、労働力人口は2015年には629,394人となり、2010年比で3.2%(20,913人)減りました。従来、沖縄の雇用環境は①労働力人口の増加②就業者数の増加③失業者数の減少-の3つが大きなトレンドとなっていました。しかし、今回の調査結果によると、就業者数は増加し、失業者も減ったにもかかわらず、労働力人口は減少したのです。

2015年の労働力人口は2010年比3.2%の減で、就業者数の増加率(1.9%)よりも大きく減っています。就業者数は増加していますが、将来的には全国的なトレンド同様、高齢化が進んでいる沖縄でも、就業者数減は避けられないと考えられます。
産業別就業者数では医療、介護がトップに
2015年国勢調査の産業別就業者数で、沖縄で最も就業者が多かったのは「医療、福祉」で、2010年よりも16.8%(11,775人)増えて81,998人となりました。産業別の構成比でも13.9%を占めています。高齢化などの影響で、医療や介護関連の仕事が増えていることが要因だと考えられます。
また、少し古いですが、就業構造基本調査によれば2012年の県内の非正規社員率の割合は44.5%で、前回調査の2007年の40.7%と比較すると3.8ポイントも高くなっており、増加傾向が続いています(コラム「正規・非正規労働の問題を乗り越えることはできるのか?」2014年12月4日、島田尚徳)。
集計方法が異なるので、単純に比較はできませんが、沖縄の2015年の非正規社員の割合は38.7%と都道府県別では最も高いものの、2010年比で0.3ポイント改善しています。全国的には非正規社員の割合は増加しており、非正規社員率が減少したのは沖縄のほかには東北の各県(青森、岩手、宮城、秋田、福島)だけです。
沖縄は好景気が続いており、企業も深刻な人手不足となっていることから、人材の流出を防ぎ、確実に人材を確保するためにも、非正規ではなく、正社員で採用しようという傾向が強まっているのかもしれません。
人材の定着が大きなテーマに
しかし、労働力人口は沖縄県においても減少し始めており、企業の人材確保に向けた取り組みは今後も重要なテーマとなっていくはずです。個人的には、県内経済を持続させていくためにも高齢者の活躍に期待したいと思っていますが、現在働いている方々を辞めさせないための戦略も重要になってくるでしょう。
人材マネジメントを工夫し、現在の限られた人員の中でも、会社の利益を確保するために、付加価値の高い商品・サービスを開発し、売上を向上させていく必要があるのです。つまり、労働力人口が減少していく中では①労働生産性を向上させる②人材を定着させる―といった取り組みが重要になってくるのです。では、具体的にどうすればよいのでしょうか。
株式会社海邦総研では2016年度、内閣府沖縄総合事務局より委託を受け、県内の主要産業の生産性向上に向けた人材マネジメントに関する調査を実施しました。以下では、その結果を筆者なりに解釈しながら、ヒントとなりそうなポイントについていくつか紹介したいと思います。
労働生産性を向上させるには?
まず、労働生産性を向上させるために、大まかに以下の2点があげられると考えられます。
①付加価値額を向上させるための取り組み
②業務改善による費用総額の削減や従業者数の適正化
つまり、①は、収益を上げる、売り上げを伸ばしていくための取り組みを行うことといえます。②は、企業における、コストをいかに削減していくかということになります。
労働生産性向上には、一般的に②のコストの削減に意識が向きがちですが、①のような収益の高い商品・サービスをつくり出し、販売していくことも重要です。
調査では、県内の主要産業である観光関連産業の企業や従業者の方々に、各種人材マネジメントに関する質問を行い、付加価値の向上と業務改善に向けたポイントの整理を行いました。
観光関連以外のサービス産業の事業所などにも参考となるポイントが含まれていると思いますので、ご活用いただければ幸いです。
重要なのは中間管理職!?
企業へのアンケート結果から生産性向上に向けたポイントを整理してみましょう。「付加価値向上」と最も相関があった設問は「中間管理職が、適切に部下(一般社員)をマネジメントできている」でした。ほかには「社員を成長させるために今より高いレベルのスキルを習得させるように仕事を与えている」などでした。
つまり、高付加価値の商品・サービスの開発とつながりがあると思われるポイントは、①企業における中間管理職のマネジメント能力②社員のスキル向上に向けた支援-です。
さらに調査結果を見てみると、具体的に中間管理職が適切にマネジメントできていると認識している企業の特徴としては、社員を成長させるために、今より高レベルのスキルを習得させるような仕事を与えていたり、社員に対して現在の成長度合いや次のステップについて伝えたり、社員の人事評価の納得度が高いといった点が挙げられます。つまり、人材育成や人事評価について意識的に取り組んでいる企業だと言えそうです。
一方、「業務効率化」と最も相関があった設問は、「事例の共有など社員間の学び合いが頻繁に行われている」でした。そのほか比較的相関があった設問は、「指示や命令をする際には、その業務の全体像や目的も一緒に伝えている」「中間管理職が、適切に部下(一般社員)をマネジメントできている」でした。
つまり、人材マネジメントの分野において業務の効率化と関連している点は、事例の共有などの社員同士の学び合いが行われているか、仕事の与え方に工夫が凝らされているか、中間管理職のマネジメント能力が高いかどうか、だと考えられるのです。
従業員は「成長予感」を重視
社員の立場からするとどのような結果になっているのでしょうか。
「付加価値向上」と最も相関が高い設問は「現在の会社で今後もさらに自分が成長すると思う」でした。そのほか比較的相関があった設問は「目標となる上司や先輩がいる」「会社は人材育成を重視している」「非正規社員の人材育成も積極的に推進してくれている」「今より高いレベルのスキルが習得できるような仕事が与えられている」「事例の共有など社員間の学び合いが頻繁に行われている」があがっています。
つまり、社員からすると、働いている会社で成長が予感できるかどうか、会社が人材育成を重視し、なおかつ実際に幅広く行っているかどうかが付加価値向上と関連がありそうです。
一方、「業務効率化」と最も相関が高い設問は「指示や命令を受ける際には、その業務の全体像や目的も一緒に伝えられている」でした。ほかには「年間を通して繁閑差に対応した労務管理ができている」「社員の役割や仕事の配分、人員の配置が適切に行われている」でした。従業員はこれらを重視しているのです。
また、今回の調査においては、従業者の定着に関する調査も行いました。その結果、現在の会社でさらに自分が成長していけると感じている社員ほど、今後も働きたいと思う傾向があるようです。さらに、人事評価における納得度、利益の還元、各々への仕事の配分の適正さなども重要なポイントとしてあがっていました。
では、具体的に社員が働いていて成長すると感じられるような会社とはどのような特徴があるのでしょうか。
調査結果からは、「今より高いレベルのスキルが習得できるような仕事が与えられている」「目標となる上司や先輩がいる」「あなたが目指す、次のステップが具体的にイメージできている」「経営者や管理者は社員に対して、必要に応じて、アドバイスしたり、相談にのってくれる」「会社は人材育成を重視している」という点があがっています。
つまり、社員の定着のためには、社員が成長を感じられるような仕事を提供し、適切にコミュニケーションをとりながら、いかにモチベーションを維持させていくのか、という点が重要なのです。もちろん、社員のモチベーションを維持していくためには、人事評価も重要です。決して、報酬だけで動くわけではありません。
生産性向上に向けた勘所
簡単に調査結果を紹介してきましたが、最後に生産性向上に向けて企業の皆さまが取り組むにあたって、「付加価値向上」「業務効率化」「人材の定着」の3つの勘所を整理しました。
もちろん、業種、企業規模や地域等によっても取り組むべき優先順位は異なると思われますが、少しずつでも取り組むことが、人材マネジメントの向上につながります。自社の優先的な課題と照らし合わせ、できることから取り組んでみてはいかがでしょうか。
付加価値向上 |
付加価値の向上のためには、中間管理職のマネジメントが重要となります。たとえば、社員に仕事を割り振る際には、社員の成長を気にかける必要があります。 具体的には、社員のレベルに合わせながら、現状の仕事よりもレベルの高い仕事を与えながら、能力の向上を促していくことが重要です。また、その際には、同時に仕事の全体像や仕事の目的、本人に期待していることなどを説明しなければなりません。 |
業務効率化 |
業務効率化を推進していくためには、社員とのコミュニケーションが重要です。社員に仕事を割り振る際には、お願いする仕事の目的や全体像もしっかり伝える必要があります。 また、個々人の業務量に応じて仕事の配分などを行う、また、個々人の業務に対して、適切な人事評価を実施する必要があります。 |
人材の定着 |
社員に長く働いてもらうためには、現在の会社で働き続けていれば今後も成長すると思うといった成長予感を与えることができるかどうかが重要なポイントとなります。 具体的には、上記の付加価値向上とも関連しますが、社員のレベルに合わせながら、現状の仕事よりもレベルの高い仕事を与えながら、能力の向上を促していくことが重要です。また、納得できる人事評価を行うこと、しっかり利益を還元すること、公平に仕事量を配分することも人材の定着にとっては重要です。 |
(出所)内閣府沖縄総合事務局経済産業部『平成28年度沖縄における主要産業の生産性向上に向けた人材マネジメント構築のための基礎調査事業 報告書』(平成29年3月)より
また、人材マネジメントの改善を行っていく上では、「取り組む際には自社としての目標を設定する」、「最終的には企業利益の拡大目指しつつ、継続的に取り組む」、「経営者が主体的に取り組む」といった点が重要となります。
■何をもって成功とするか、社の目標を決める |
労働生産性の向上に向けた人材マネジメントの実施に当たり、自社としての目標を設定する必要があります。つまり、企業としての優先順位の設定が重要です。具体的には、自社の現状の課題と照らし合わせて、自社が必要としている取り組みとしては、利益を向上させるための取り組みなのか、業務改善の取り組みなのか、人材の定着の取り組みなのという優先順位を決めることが重要となります。 もちろん、優先順位を設定する際には、経営層だけでなく、社員からも意見聴取しながら優先順位を設定し、社員と共通認識を持って取り組んでいくことが重要です。 |
■企業利益の拡大を目指し、継続的に取り組む努力を |
自社における人材マネジメントの取り組みの「目標」を設定し、達成したとしても、実際、人材マネジメント全般を考えると取り組むべき項目は依然として多く残っていることが考えられます。 したがって、企業としての大きな目標の一つである利益の向上を達成するためには、一時的な成功に満足するのではなく、持続的に人材マネジメントの改善に向けた取り組みを続けていく必要があります。そのためにも、チェックリストにはさまざまなヒントを記載していますので、活用してください。 |
■人材マネジメントには経営者が主体的に参画を |
労働生産性の向上に向けた人材マネジメントの取り組みを成功させるためには、経営者が各プロセスにおいて主体的に参加していかなければなりません。たとえば、業務改善に向けて残業時間を減らす目標を立てたとしても、仕事量、仕事の配分などに変化がなければ、社員は疲弊してしまうだけで、モチベーションを失い、最終的には離職してしまうかもしれません。 しがたって、人材マネジメントの取り組みにあたっては、社員とコミュニケーションを図りながら、どこに問題があるのかを特定し、なおかつ、その問題点の解決に向けて、経営者も社員と一緒になって検討し、改善に向けた取り組みを行っていく必要があります。 |
(出所)内閣府沖縄総合事務局経済産業部『平成28年度沖縄における主要産業の生産性向上に向けた人材マネジメント構築のための基礎調査事業 報告書』(平成29年3月)より
なお、今回の調査にあたっては実際の取り組みにあたってのヒントとなるようなチェックリストを作成いたしました(次ページの図表を参照ください)。労働生産性の向上へ、人材マネジメント改善の参考にしていただければ幸いです。
※本レポートは内閣府沖縄総合事務局から委託を受けた調査結果を筆者の解釈を交えながら紹介いたしましたが、詳細な調査結果が知りたい方は内閣府沖縄総合事務局経済産業部企画振興課にお問い合わせください。
■付加価値向上に関するチェックリスト
■業務効率化に関するチェックリスト
■人材の定着に関するチェックリスト
(了)