[マスクの下 こころとからだ 子どもたちの今](3) 増える肥満(上)
そんなはずはない。そんなはずはないのに。ズボンのウエストのボタンが、息子のおなかに引っかかって留まらない。
保育園の卒園式で購入した、とびきりの一着。「まだ2カ月しかたっていないのに」。延期が続いた小学校の入学式が翌日に迫っていた。
うつむく息子=当時6歳=を前に、ユウタさん(40)=仮名、沖縄本島南部=は必死で平常心を装った。「大丈夫。新しい服を買いに行こう」。顔つきやおなか周りがふっくらしたとは感じていた。それでも-。内心、ひどく動揺した。
社会が新型コロナウイルスという未知の感染症に直面して間もない2020年5月末。無人の公園で子どもを遊ばせることもはばかられた。卒園式から、息子を家の外に一歩も出していなかった。
園児でもなく、小学生ともいえない「空白の期間」。それが、外で体を動かすことが何より好きだった息子の性格と細身の体形を変えた。
8歳になった息子は、身長130センチで体重は40キロ。「標準体重」の約1・5倍になった。
20年3月末。ユウタさんは妻と共に、やむなく勤務を在宅に切り替えた。臨時休校や休園となった息子と、2歳下の娘のためだ。
在宅といっても仕事量が減るわけではなく、親が一緒に遊ぶ時間も限られる。「家で暇を持て余す子どもたちがかわいそうに思えて」。ブロック玩具、カードゲーム。室内で遊べるおもちゃをそろえた。それでも間は持たず、取り入れたのがユーチューブだった。
当初は、親が視聴時間を制限した。「動画の検索方法も分からないし、と甘く見ていたけれど」。いつの間にか息子は操作方法を覚え、好きなだけ見るようになった。
公園の遊具に触れてよいかどうかという話題が新聞記事になるほど、人々がウイルスに敏感だった時期。外遊びに行けず、ストレスをため込む子どもたちの世話をユーチューブに頼るのは「仕方がなかった」と思う。「でも、罪悪感がとてもある」
外出自粛の要請が終わって小学校の入学式を迎えても、息子は外で遊ぶことを渋った。ことあるごとに「外は面倒くさいし、面白くないから嫌。家がいい」と口にする。走ったり、公園でエイサーを踊ったりするのを楽しんでいた以前の姿との落差に、ユウタさんは戸惑う。
息子の食べる量や間食が劇的に増えたわけではない。けれど、放課後も休日も家で体をほとんど動かさずにいる。体重ばかりが、増えていった。
(「子どもたちの今」取材班・篠原知恵)
走るのが得意だった息子。久しぶりのかけっこの結果に、ユウタさんはかける言葉を失った。体重の増加とともに起きた息子の変化はー。連載の続きは31日に沖縄タイムス+プラスで配信します。
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