具体的な犯罪行為がなくても、合意という「心の中」を処罰できる「共謀罪」法が11日、施行された。277もの犯罪の「準備」という容疑をかけるだけで、警察は動きだすことができる
▼施行されたからといって、今日から私たちの生活が劇的に変わることはないだろう。「そう目くじらを立てて騒ぐことはない」と思うかもしれない
▼日本が大正デモクラシーで比較的平和だった1925年、治安維持法はすんなりと成立した。共産主義者の摘発が目的で「一般人は対象ではない」とされ、当初は広く行使されないでいた
▼しかし30年代に入ると軍国主義が拡大し、同法は一般人の権力批判と少数意見も徹底的に弾圧した。何かが劇的に変化したわけではない。昨日より今日と、なし崩し的に社会の空気を変え、言論の自由を消滅させた
▼「こんな人たちに負けるわけにはいかない」。東京都議選の最終日、安倍晋三首相は秋葉原での演説で声を張り上げた。「辞めろ」コールを大合唱する人々を指さして
▼「共謀罪」は「一般人が対象ではない」と政府は言う。だが、一般人かどうかを決めるのは政府だ。首相が政権批判する国民に敵意をむき出しにし、その発言を菅義偉官房長官が「極めて常識的」と擁護する。いつの間にか「こんな人たち」にくくられる危険性が、この法には色濃く潜む。(磯野直)