戦争で両親と二人の妹を失った高木敏子さんの体験談をつづった『ガラスのうさぎ』(金の星社)を読んだ。小学生のころ、初めて手にしてから30年以上の年月を経ているが、あらためて感慨を抱いた

▼東京生まれの高木さんは13歳のころ、東京大空襲で母親と妹を失った。終戦直前、疎開先の駅で米戦闘機の機銃掃射で父親を奪われる。一人で火葬や埋葬の手続きを行い、周囲の大人に助けられながら、弔う

▼高木さんの体験談を子ども向けに出版したのが1977年。世代を超えて読み継がれ、240万部弱のベストセラーになり、9カ国語に翻訳されている

▼『ガラスのうさぎ』で父親の死の直後、海に入り死のうとするシーンもある。戦後、戦争放棄をうたった憲法9条に「輝く太陽のように、まぶしく見えた」と喜びを記している

▼平和の巡礼として高木さんは講演活動を続けた。半生をまとめた『ガラスのうさぎ 未来への伝言』(同)に「戦争を起こそうとするのは人の心です。戦争を起こさせないとするのも人の心です」と訴えている

▼安倍晋三首相は今夏、戦後70年談話を発表するという。講演会で、「国の指導者が選択を誤れば、大きな犠牲を払うのは弱い立場の国民」と語る高木さんが『ガラスのうさぎ』に込めた平和のメッセージを今こそ読み直す時だ。(与那原良彦)