数年前にブーム再来となった「蟹工船」の作家・小林多喜二の命日は、こよみに「多喜二忌」と記される

▼「虐殺忌」と背筋が冷たくなる別名もある。戦前の治安維持法下で投獄され、特高警察の拷問で虐殺されたためである。1933年2月20日だった

▼多喜二の母セキは毎年、2月をつらい気持ちで迎えた。〈ああまたこの2月の月が来た 本当にこの2月という月が嫌な月 声をいっぱいに泣きたい…ああ涙が出る 眼鏡がくもる〉と嘆き続けた。家族を無残に失った悲しみ、怒りは消えることはない

▼ことしの2月のニュースに幾度も悲しみを覚えた人も多かっただろう。最近では、川崎市の中学1年生、上村遼太さん(13)が殺される事件があった。鋭利な刃物で首を深く刺されるなどしたという。むごたらしい犯行に、書いていて胸が締めつけられる

▼遺棄現場で献花した祖母は「あんな残酷な殺し方をして」と声を震わせ、「どんなに痛かったか。犯人に分かってほしい」と憤った。一刻も早く犯人が捕まることを願う

▼それにしてもである。シリアで邦人が過激派組織に殺害され、神奈川と千葉では母親が幼い姉妹を自らの手であやめ、和歌山、福岡でも大人が近所の児童の命を奪った。相次ぐ事件で心痛む日が続いている。こよみの上では春はもうすぐというのに。(宮城栄作)