国民が直接、国に法律の制定や改廃を提案できるイニシアチブ(国民発議)制度を日本でも導入しようと、市民グループ「INIT」(国民発議プロジェクト)が議員立法での制定に向けて活動している。共同代表で、「辺野古」県民投票の会元代表の元山仁士郎さん(31)は「主権者として実行力を持ち、政治に関わる制度を整える必要がある」と強調する。(中部報道部・伊集竜太郎)
同プロジェクトは今年4月に発足。元山さんは「原発再稼働や防衛費の大幅な増額、入管難民法の改定などが国民的議論もなく、数の力でなし崩し的に進められている」と指摘し、制度導入の必要性を語る。
同プロジェクト企画・運営委員で、国内外の国民投票や住民投票を取材するジャーナリストの今井一さん(69)によると、国民発議制度はスイスやイタリア、台湾など少なくとも15の国・地域で活用されている。国レベルでは400件以上の国民発議が行われているという。国によって異なるが、スイスでは国民自ら新たな法案や改廃案を策定し、必要な署名を集めて国民投票によって結果が反映されている。
元山さんが代表を務めて投票実施へ署名を集めた、新基地建設に必要な名護市辺野古沖の埋め立ての賛否を問う2019年の県民投票では、投票率は5割を超えて7割超が反対に投票したが、今も工事は進む。一方、制度導入で国民投票を実施すれば「国民の多数の結果を政府は無視できないはずだ」と考える。日米地位協定の改定や、有機フッ素化合物PFAS(ピーファス)など汚染源特定のための米軍基地への立ち入り権なども国民投票で問うべきだと語る。
日本が間接民主制であることを挙げた上で「選挙で争点、争点というが、どれだけの人がその情報に触れて考えて、本当にその争点で投票しているか疑問だ」と投げかけ、ワンイシューで問うことでより議論も深まり、国民の意思が反映されやすいと指摘。
「選挙で投票して後は議員に任せる『選挙の時だけ主権者』ではなく、制度導入で『365日主権者』として関わることで、日本の民主主義はより機能するのではないか」と話した。
同プロジェクトは活動資金の一部として365万円をクラウドファンディングで今月30日まで募っている。詳細は同プロジェクトのホームページで。
国民自ら法律改正を提案
国内外の国民投票や住民投票を取材するジャーナリストの今井一さん(69)によると、恒常的に国民発議を実施しているスイスでは、国民投票の実施時期が年に4回あり、1回当たり数件の投票が行われているという。国民が自ら新たな法案のほか法の改廃案を提案し、18カ月以内に10万筆(有権者の約2%)以上の署名を集めれば国民発議が成立し、国民投票を実施しなければならないという。政府や議会は結果を反映する。
今井さんが現地で取材したスイスの女性は、娘が性被害に遭った。娘を暴行した男は再犯で、刑務所から釈放されてすぐ犯行に及んだ。女性は、刑務所内にいる性犯罪者が容易に釈放されないよう刑法改正を求める国民発議を行い、国民投票の結果、賛成多数で成立した。
国によって制度の内容は異なる。イタリアでは国民発議に基づく国民投票は法律の廃止に限られ、投票率50%以上と成立要件があるが、スイスではそれはないという。
今井さんは、日本での制度の内容は今後の議論だとした上で「日本では法律の改正案を国民自ら国会に提案・発議できず、議員や政府にお願いするしかないのが現状だ。まずは導入して、主権者である国民の意思を反映させる仕組みが必要だ」と強調した。
(中部報道部・伊集竜太郎)