
沖縄本島北部にあるホテルのビーチで11日、遊泳中の児童2人が猛毒を持つハブクラゲに相次いで刺された。このうち7歳の女児は一時、心肺停止に陥り、ドクターヘリで病院に搬送された。一命を取り留めたものの、1週間がたった今も体中に傷痕が残る。女児の伯母が本紙に当時の緊迫した状況を明かし「一人でも多くの人にハブクラゲの怖さを知ってほしい」と訴えた。県は県内全域にハブクラゲ注意報を発表中。(社会部・普久原茜)
「痛いっ」。11日午後4時ごろ。突然、ビーチに悲鳴が響いた。女児がクラゲ防止ネット内側の波打ち際で遊び始めた直後のこと。両親が女児を抱えて助けを求めたが、ライフセーバーの責任者は応急処置などの対応をしなかったという。
一緒にビーチを訪れていた伯母が駆け付けると、女児の顔は真っ青。口から泡を吹き、縄を巻いたような赤黒い筋が脚や腕に広がっていた。
女児の呼吸が止まり、偶然近くに居合わせた宿泊客の医師が心肺蘇生の処置を始めた。かすかに息を吹き返したのは事故から約15分後で、ホテルの自動体外式除細動器(AED)が到着したのとほぼ同時だった。
女児は救急車とドクターヘリで搬送され、何とか一命を取り留めた。病院の医師には「この傷はなかなか消えないだろう」と言われたという。突然の事故に、女児や家族のショックは大きい。
両親や伯母は後に、同じ日の午前中、同じビーチで男児がハブクラゲの被害にあっていたことを知った。伯母は「張り紙や看板など利用客に周知はなかった。知っていたら海には行かず、プールで遊んでいた」と怒りを込める。
クラゲ防止ネットがあっても、波が高いと侵入してくる場合がある。ハブクラゲは自然の生き物で、被害は不運だったとも思う。だが伯母は「ホテル側の対応はあまりにずさんだった。万が一あのまま命を失っていたらと思うと本当に怖い」と話す。
観光で沖縄を訪れ、ハブクラゲ自体を知らなかった。「被害が少しでも減るよう、ビーチを運営する側は被害があればすぐに周知し、事故に備えた対処も万全にするべきだ」と訴えた。
本島北部のホテルの担当者は取材に対し、詳細を明らかにしなかった。「対応に追われて利用者への通知にタイムラグが生じることはあるかもしれない」としつつ、「事故が起きたら、ルールにのっとり適切に対応している」と説明した。
応急処置には酢が有効 毒針の発射止める役割
刺されると激しい痛みがあり、時に命に関わるハブクラゲの被害。県内では過去に3人が命を落とした。波の静かな砂浜や人工ビーチなどの被害が多く、時に20~30センチの浅瀬にも潜む。透明なため水中での目視には限界があり、事前の対策が肝要だ。
県内のハブクラゲ被害は2022年に44件と、コロナ禍で海水浴が控えられた前年に比べ19件増えた。子どもの重症事案は21年にも発生し、女児(9)が意識を一時失った。
県はハブクラゲ侵入防止ネット内の遊泳を呼びかけるが、11日の被害はいずれもネット内だった。ネットだけでは万全と言えず、衣類で肌の露出をできるだけ避けて泳ぐ「二重の対策」が重要になる。

海水浴には酢(食酢)の持参を。絡み付いたハブクラゲの触手から毒の発射を止める働きがあり、応急処置に有効だ。県は、もし刺されたら(1)海から上がり、激しい動きをせず近くの人に助けを求める(2)刺された部分をこすらず、酢をたっぷりかけて触手を取り除き、氷や冷水で冷やす(3)医療機関を受診する-よう呼びかけている。(デジタル編集部・篠原知恵)