世界中で深刻化する干ばつを、環境に優しい方法で解決するー。インドで生まれ、沖縄で育ったそんな独創的な資材が「EFポリマー」です。原料は果物の皮。高い吸水力と放水力を持ち、役目を終えると生分解されるため、農業だけでなくおむつや化粧品にも応用できる、高い将来性を持ちます。その開発の軌跡や販売戦略とは? 今回のシリーズ「沖縄・新時代の挑戦者たち」は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)内にあるベンチャー企業「EF Polymer社」を上下2回で取り上げます。<上>は、インド出身で25歳の最高経営責任者(CEO)のナラヤン・ラル・ガルジャール氏が、母国で起業してから沖縄に来るまでの道のりを追いました。
#上)瀕死の地球を救う 捨てられる果物の皮からできた驚きの粉 インドの起業家が20歳で沖縄に渡るまで(今回)
#下)医療や化粧品にも 使い道は無限大 普及へ世界を駆ける33歳COO、エコな未来描く

沖縄本島北部の海が一望できる広大なキャンパス内を、車でゆっくりと走って約3分。ノーベル賞を受賞した教授も在籍する沖縄科学技術大学院大学の南端に、起業支援施設「イノベーション・スクエア・インキュベーター」がある。新興企業40社とともに入居するのが、EF Polymer(イーエフポリマー)社だ。「EF」は「エコフレンドリー」を意味する。
「Mother nature has a solution for every problem(母なる自然に全ての問題の解がある)」。取材時にガルジャールが着ていた土色のTシャツの背中には、そう社是が記されている。同氏が2018年に母国で創業後、同大学の支援を受け、20年にインドから本社を移した。
一般的にポリマーは「高分子吸収体」を意味する。粉末または粒状で、水分を吸うとゼリー状に柔らかく膨らみ、吸水と放水を繰り返す性質を持つ。例えば、農作物の根に近くに埋めた場合、大雨の時には余分な水分を吸収して根腐れや栄養分の流出を防ぎ、少雨で土壌が乾いた時には水分の供給源となって枯れるのを防ぐ。
従来の化学ポリマーは石油を主原料とし、自らの重量の数十から数百倍の水分を吸収する半面、地中で分解されず、一部の成分が土壌中に残る。一方のEFポリマーは、ミカンやバナナの皮など農作物の残渣(ざんさ、かす)を原料にする。農業に適した、自らの重さの約50倍の水分を吸収できる上、使い始めて1年後には完全に生分解されるため、環境への負荷がない上、微量の栄養素も含む。
同社の実証実験によると、EFポリマーを農業に使った場合、使う水量を40%、肥料を20%節約できるほか、収穫量と農業所得はいずれも15%増えた。専業農家だけでなく、家庭菜園をする個人向けにも、アマゾンで500グラム1250円(税込)から販売している。