意外な縁でインドから沖縄に来ることになったEF Polymer社の最高経営責任者(CEO)のナラヤン・ラル・ガルジャール氏(25)。母国で生んだ環境に優しい資材「EFポリマー」を、世界レベルの研究水準を持つ沖縄科学技術大学院大学(OIST)で磨き上げ、国内外で環境賞を受賞。多くの業界や国々の注目を集めています。同社を取り上げたシリーズ「沖縄・新時代の挑戦者たち」の<下>は、県出身で最高執行責任者(COO)の下地邦拓氏(33)が描く世界規模の事業開発や販売戦略、製品の普及を通して目指す社会像に迫りました。

#上)瀕死の地球を救う 捨てられる果物の皮からできた驚きの粉 インドの起業家が20歳で沖縄に渡るまで
#下)医療や化粧品にも 使い道は無限大 普及へ世界を駆ける33歳COO、エコな未来描く(今回)

 

 製品のユニークさや環境への優しさ、農業にとどまらない幅広い用途が評価され、OISTの起業支援先に選ばれたEF Polymer社。ガルジャールは同じ村出身の先輩で、事業に理解の深かった起業家のプーラン・ラジプット(30)を共同創業者として迎え、2人で沖縄へ。2020年3月には本社を同大学内に移し、インドの法人を子会社化して、新たなスタートを切った。

沖縄に来て間もなく、本島北部の海を訪れたガルジャール(右)とラジプット=2019年(EF Polymer社提供)
沖縄に来て間もなく、本島北部の海を訪れたガルジャール(右)とラジプット=2019年(EF Polymer社提供)

 「沖縄科学技術大学院大学に来たことで、琉球大学や県内の市町村、農家とのつながりができ、大きな助けになった。多くの実験データを得て製品を洗練させ、100%オーガニックにすることができた」とガルジャールは意義を語る。充実した設備で自由に実験できるほか、課題を抱えた時には教授や研究者からアドバイスを受けられることもメリットに挙げる。

実験室でEFポリマーの吸水効果を確認するCEOのガルジャール=2021年撮影、沖縄県恩納村・沖縄科学技術大学院大学内のEF Polymer社
実験室でEFポリマーの吸水効果を確認するCEOのガルジャール=2021年撮影、沖縄県恩納村・沖縄科学技術大学院大学内のEF Polymer社

 沖縄に本社を構えて3年でEFポリマーの販売総量は160トン、再利用した農作物の残渣(ざんさ、かす)は1600トンに伸びた。導入した農家はインドや米国、日本など5カ国で約1万2千戸。21年度には「環境スタートアップ大賞」で最高の環境大臣賞を受賞したほか、22年には米国の民間団体から、今後5~10年で社会に大きな影響を与えるアジア太平洋地域の重要25社「クリーンテック25」にも選ばれた。

沖縄県内でEFポリマーを使って育てたニンジンの収穫イベント。農家は「色や大きさ、成長度合いなど、想像していたよりも違いが出て驚いた」と効果を話した=2023年3月、読谷村の島袋農園(EF Polymer社提供)
沖縄県内でEFポリマーを使って育てたニンジンの収穫イベント。農家は「色や大きさ、成長度合いなど、想像していたよりも違いが出て驚いた」と効果を話した=2023年3月、読谷村の島袋農園(EF Polymer社提供)
EFポリマーを使った赤土流出対策に取り組む恩納村のサトウキビ農家とガルジャール(右端)=2021年撮影(EF Polymer社提供)
EFポリマーを使った赤土流出対策に取り組む恩納村のサトウキビ農家とガルジャール(右端)=2021年撮影(EF Polymer社提供)

 インドで生まれて沖縄で育ち、高い将来性を持つEFポリマーの販売をどう広げるか。同社で国内外への事業開発戦略を担うのが、COOの下地邦拓だ。沖縄市出身で沖縄尚学高校を卒業後、米国のセント・ジョーンズ大学で国際関係を専攻。米ワシントンのシンクタンクや外資系のコンサルタント会社勤務を経て20年、OISTの「学長室戦略リレーションシップオフィサー」に就いて渉外を担った後、22年8月にEFポリマー社に移籍した。

 多彩な経歴を持つ下地の一貫した目標は「沖縄に新しい産業をつくること」。コンサル勤務時代には、東京都内で...