[ファクトデマ チェック]
実業家のひろゆき(西村博之)氏が今年2月のユーチューブ配信で、沖縄は老いた親をあえて寝たきりにしてその年金収入で暮らす構造があると発言していたことが分かった。「寝たきり老人が人口当たり一番多い」など、前提にした3点の主張を本紙がファクトチェックすると、2点が「誤り」、1点が「不正確」だった。(編集委員・阿部岳)
ひろゆき氏は配信で「沖縄は平均所得が少ないので、高齢者をなるべく生き残らせて、もらった年金を家族で使うという方が良いよね、というモチベーションが湧いてしまう構造の地域」「寝たきり老人がいるだけで、その家族は何もしないで食える」などと述べた。
厚生労働省によると、都道府県別の寝たきり高齢者数は正確な調査がない。そこで65歳以上人口①のうち、最も重い要介護5の認定を受けた人②の割合を比べた。
その結果、要介護5の人が最も多いのは高知の2・12%、少ないのは佐賀の1・24%だった。沖縄は全国平均と同じ1・63%で、多いとは言えなかった。
ひろゆき氏は沖縄に関する発言で「年金が多めに出てしまう」とも述べた。この点を検証するため、会社員や公務員が加入する厚生年金③と、自営業者などが入る国民年金の老齢年金額④を合計。65歳以上人口で割り、1人当たりの額を都道府県別に比較した。
すると、沖縄は月額約7万7千円と全国最下位で、1位の富山の約11万2千円より3割以上少なかった。ひろゆき氏の主張は誤りだった。
3点目の主張は「年齢が高い高齢者はそれだけで、もらえる年金の額が多い」。厚労省によると、年金は加入期間に応じて支払われるため、年齢は大きく影響しない。
ただ、厚生年金は給付水準が次第に切り下げられてきた経緯があり、年齢が高い方がやや多い傾向にある(厚労省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」⑤)。逆に国民年金は制度が拡充された1986年まで加入していなかった人がいるため、高齢者ほど少なくなる。ひろゆき氏の3点目の主張は不正確だった。
本紙がNPO「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のガイドラインに沿ってファクトチェックした。
■配信通し偏見を拡大 SNSで批判集まる
沖縄の人々が年老いた親を食い物にしているかのようなひろゆき氏の発言は今年2月16日、視聴者の質問に答えるユーチューブ配信で出た。視聴者も「沖縄終わってんな」「ゾンビが飯のタネ」などのコメントを寄せ、偏見が連鎖した。今月に入って配信の一部が交流サイト(SNS)で拡散され、批判が集まった。
ひろゆき氏は昨年10月にも名護市辺野古の新基地建設の現場を訪れ、抗議行動をやゆした。「沖縄の人って文法通りしゃべれない」というヘイトスピーチ、名護市長が新基地を容認しているとの誤情報を含め、沖縄に関する発言を重ねている。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」の開設者で、SNSのフォロワーが多く影響力が強い「インフルエンサー」として知られる。
■全国で事例 沖縄だけを標的にして語るのは差別
NPO法人「介護と福祉の調査機関おきなわ」の堀川美智子理事長の話 沖縄には復帰直前まで、年金制度がなかった。加入が遅れたため全体として年金受給額は低い。国民年金だと満額は約6万6千円だが、私が関わる範囲では3万~4万円の人が圧倒的に多い。年金が多めに出ている、という話が一体どこから出てきたのか分からない。
年老いた親の年金で暮らす子どもがいるのは全国的な現象だ。親の死亡届を出さずに受給を続ける例が、各地で明らかになっている。沖縄だけを標的にして語るのは差別ではないか。
■私たちへの冒涜
沖縄大学非常勤講師の親川志奈子氏の話 沖縄戦をくぐり抜けたお年寄りと、お年寄りを大切に思う私たちへの冒涜(ぼうとく)だ。沖縄についてデマやヘイトスピーチを繰り返すのは、そうしてもかまわない対象だという差別、蔑視が根底にあるから。失うものはなく、むしろ炎上して注目が集まることで商売が成立する。
沖縄側はそのたびに反論し、ファクトチェックする負担を強いられる。県差別のない社会づくり条例は現在、沖縄ヘイトへの対処が具体的に決まっておらず、このひどい状況から出発した議論が求められる。
【参考資料】
①65歳以上人口
②要介護5の認定を受けた人の数
③厚生年金の受給額
④国民年金の受給額
⑤厚労省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」