[心のお陽さま 安田菜津紀](22)
沖縄にも、「自慢の海」があるでしょう。そしてまた、埋め立てられてしまった海、埋め立てられようとしている海も。つながっているはずの海が、なぜずたずたに引き裂かれ続けるのだろう。
パレスチナ・ガザ地区を訪れた2018年、案内してくれた友人が、「絶対に見せたい」と言って、ガザを離れる直前の私たちを急いで連れて行ってくれたのが、「自慢の場所」だという港だった。真っ白なモスクを望むエメラルドの海の上に、色とりどりの小さなボートが並ぶ。けれどもその「自慢の場所」から出る船は、地中海に悠々と繰り出すことはできない。ガザの漁師たちの漁業可能水域は限られ、航行は厳しく制限されている。
東京23区の3分の2ほどの面積しかないガザには、約220万人のパレスチナ人が暮らし、人口の6割近くが国連からの食糧支援を受けている。イスラエルによって16年にわたり封鎖され、周囲を壁やフェンスで囲まれている上、電気も通信環境も十分ではない。“天井のない監獄”と呼ばれる所以(ゆえん)だ。
10月7日、ガザを実効支配するイスラム組織「ハマス」がガザの外へと侵攻し、多くのイスラエル市民が犠牲になった。それを決して、許容してはならず、最大限の言葉で非難する。それ以前から、ハマスによるガザの人々への人権侵害も多数指摘されてきた。一方で、これは突如として湧いてきた問題ではない。“天井のない監獄”状態が示すように、不条理は長年にわたって人々を苦しめてきた。
イスラエルからの「報復攻撃」で、ガザでの死者は増え続けている。イスラエル側が「完全封鎖」と称し、水道や電気など、生活や命に関わるガザへのインフラを止めることもまた、戦争犯罪だろう。これからイスラエル軍による地上侵攻となれば、さらなる凄(せい)惨(さん)な事態は免れない。
あのガザの港に立ったとき、「日本の沖縄にも同じような色の海がある」と友人に伝えた。途切れ途切れに彼女から届くメッセージは、毎回こうだった。「大丈夫、まだ、生きてるよ」。その連絡も今は、途絶えている。
(認定NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)=第3月曜掲載
(写図説明)パレスチナ・ガザ地区の港。2018年2月撮影