畜産や酪農を含む農業は、工業技術やテクノロジーの進化によって生産効率や品質を高め、発展する。世界中で戦争や紛争の「有事」が頻発する中、食料自給率は国力を表す一つの指標として改めて注目されている。その上で、先進国とはすなわち、「先進農業国」であると定義することができる。産業としての農業に成長余地が見込まれるのなら、それを糧にその地域の人々の暮らしや経済は伸びていくだろう。9月下旬、初めて訪問した南米ボリビアの沖縄県人入植地「コロニア・オキナワ」には、そんな農業を軸にした経済発展の潜在力が感じられる、貴重な生産地とコミュニティーがあった。

 南米に根付く県系移民の方々と「食」のビジネスで持続的につながることはできないか。市場調査と連携先開拓のため、ボリビア・サンタクルス県で商社ISHIMAを経営する第17次移民、島袋正克さん(70)の案内のもと、現地の県系人たちを訪ねた。

 三つの移住地に243世帯822人の県系人が暮らす。約6万ヘクタールもの農地面積を有し、大豆や麦、米、トウモロコシ、サトウキビ栽培を中心に農業、畜産業を営む。中でも大豆は飼料用として生産され、加工工場や大型のサイロなどもあり、同国の農業に貢献している。サンタクルス県はボリビアの農業生産の約7割を担う、国内有数の「食糧生産基地」で、その一翼をオキナワ移住地が担っている。

放牧で育てられているオキナワ移住地の肉用牛=9月28日、サンタクルス
放牧で育てられているオキナワ移住地の肉用牛=9月28日、サンタクルス

 同行したのは、石垣牛の肥育生産から加工販売の一貫経営を手がけるゆいまーる牧場(石垣市)の金城利憲さん(68)。ISHIMAの仲介で2021年、コロニア・オキナワで収穫された飼料用全脂大豆20トンを初めて石垣島の自社牧場のために輸入した。従来の文化交流を超えて、両地域で経済交流が成り立つことを確かめる貴重な先例をつくり、国際協力機構(JICA)の「Okinawa to 沖縄」プロジェクトのきっかけとなった。畜産飼料は日本全国で需要があり、沖縄を介した輸出事業の検討が続けられている。

 だが、連携の可能性は飼料の調達にとどまらない。沖縄でブランド和牛の市場をゼロから育ててきた金城さんの経験と技術を「オキナワ」に当てはめると、一気に視界が開けてくる。例えば移住地の畜産業に日本や沖縄で培った畜産技術を投入し、ブランド牛育成を柱に、新たな食ビジネスを開拓していくことだ。...