「社会復帰へのチャレンジを決意したのは70歳のころ」。1月、東京であったハンセン病国際シンポジウムで回復者の山内きみ江さん(80)が語った
▼ハンセン病患者の強制隔離政策の下、22歳で国立療養所多磨全生園に入所。園内での結婚は夫の「断種」が条件だった。それから50年後、初めて外での暮らしを決心したという
▼しかし保証人がいないことや年齢、「ハンセン病の元患者と一つ屋根の下に住むのを借家人が嫌がる」という理由で部屋探しは難航。あきらめかけたころ支援者の働きかけでやっと借りることができた
▼70歳を過ぎてようやく実現した夫妻の生活を、写真とともに紹介してくれた山内さん。何げない日常を撮影するのにかかった年月を考えたとき、社会の差別や偏見が人の一生にもたらす影の大きさを知った
▼1907年施行された「癩(らい)予防ニ関する件」。それから続いた強制隔離政策の廃止は96年。長すぎる過ちの歴史は、いまだに多くの回復者が病を隠して生きる現状へつながる
▼そんなハンセン病の歴史資料を展示する国立療養所愛楽園の「社会交流会館」(名護市)がこのほど完成した。一般公開は6月1日から。「社会が同じ過ちを二度と犯さないため、多くの人がハンセン病の歴史を知ってほしい」という回復者の声に、社会の一員として応えたい。(黒島美奈子)