[第37回NAHAマラソン]
12月3日のNAHAマラソンまで残り約3週間となった。フルマラソン完走のためには「走る」トレーニングだけでなく、食事やストレッチ、コースの攻略も大切な要素。ベストな状態で大会に臨めるよう、必要な栄養の取り方や、体を整えるストレッチの方法などをそれぞれの専門家に聞いた。
ペース配分 攻略の鍵 応援や食べ物も楽しもう
沖縄県ランナーズクラブ連合会名誉会長・東江久雄さん

目前に迫った本番に向け、練習の成果を余すことなく発揮するためにも、コースの特徴や攻略法を押さえておきたいところだ。NAHAマラソンを30回以上完走し、コースを熟知する県ランナーズクラブ連合会の名誉会長を務める東江久雄さん(70)=読谷村=に初心者向けの攻略法を聞いた。(聞き手=社会部・垣花きらら)
スタート焦らず
まずはスタート時、気を張り過ぎないこと。スタートから国際通り辺りまではランナーが詰まった状態となるが、焦らず周りの流れに身を任せて混雑から抜けるのを待とう。右や左に前の人の間を縫うようにして走ると無駄な体力を使い、不必要に距離を走ることになり後半に響いてくる。
制限時間の6時間15分以内に走り切るためのペース配分も、しっかりと意識したい。時計を身に着けるのは必須。体力がある前半は1キロ7分~7分半、後半は1キロ8分のペースで、30キロ地点からは1キロ9分ペースが目安だ。NAHAマラソンには1キロごとを示す表示がある。どのくらいのペースで走れているかをしっかりチェックしておこう。
17キロ地点から20キロ地点までの上り坂、21キロ地点の平和祈念公園に向かう下り坂はNAHAマラソン最大の難所だ。上り坂は約3キロと長く、標高も一気に約60メートル上がるため傾斜もきつい。
上り坂を走るときは、顎を引いて目線を落とすように体全体を前に倒す走法だと楽に上れる。歩幅をできるだけ小さくし、ちょこちょこ歩くようなイメージで、腕も振り過ぎないことがポイント。
下り坂はゆっくり走ることを心がけて。自然とスピードが上がってくるが、速いスピードで進むと膝を痛めてしまうこともある。
難所乗り越えて
疲労で足がピクピクし始めたら、無理に走らずスピードを落として症状が治るのを待とう。足がつってしまうと、回復するまでに時間がかかり、なかなか思うように動けなくなる。力を抜き、膝を伸ばしたり足首を回したりと軽いストレッチで体をほぐして。
那覇市のモノレール赤嶺駅を過ぎた38キロ地点から40キロ地点までの坂は、最後の難所だ。体力が限界状態となり精神的にも追い詰められるが100メートルごとに走って歩くを繰り返し、難所を乗り越えよう。
6時間15分までに41・9キロ地点の奥武山陸上競技場のゲートに入れば、その後ゆっくり歩いても完走できる。
一番は無理せず気楽に走ることが大切。NAHAマラソンの醍醐味(だいごみ)である沿道からの応援や提供の食べ物も楽しみながら、ゴールまで駆け抜けて。
準備運動で効率よい走り 関節の可動域広げけが予防
ガルフスポーツクラブ牧港副所長・高橋俊幸さん
NAHAマラソン本番で練習の成果を十分に発揮できるよう、コンディションをしっかり整えていきたい。浦添市のガルフスポーツクラブ牧港の副所長で、NSCA認定パーソナルトレーナーの高橋俊幸さん(42)に効果的なウオームアップや筋力トレーニングを聞いた。(聞き手=社会部・島袋晋作)
長い時間をかけ、長距離を走るマラソン。高橋さんは「関節の可動性を高めることで効率よく走れるし、けがの予防にもつながる」と説明。足首、背骨、股関節の3カ所の可動性を高めるプレパレーション(準備運動)を紹介した。
まず、足首周りの可動性を高める「アンクルモビリゼーション」。片膝を立てて90度ほど開き、前側の手で脚関節を押さえる。さらにもう一方の手でかかとを地面に着くよう押さえながら重心をつま先に向けて移動させ、足首を動かす。可動域が広がり、着地時に推進力を得るとともに下肢のけがの予防にもつながる。
続いて紹介したのは四つばいになり、骨盤から背骨を順番に動かす「キャットストレッチ」。息を吐きながら背中を丸め、目線は、へその位置に。ゆっくりと背骨を戻して背中を反らし、顔が上がったところで小さく息を吸う。この動きを繰り返す。反り腰の方にも猫背の方にもお勧めだ。
また、普段、肘掛けに寄りかかったり、脚を組むことが多かったりして、左右差がある方には片側に寄せて行う「キャットストレッチ・ハーフ」も効果的。高橋さんは「地面からの反発力をうまく推進力に生かす上で、真っすぐな姿勢は重要」と意義を強調する。
三つ目は「オブリークリーチ」。横向きの状態で肩の下に肘を突き、下の脚を前に、上の脚は股関節から真っすぐ伸ばし、それぞれ膝と足首は90度にする。
息を吐きながら上の腕を前に伸ばし、下のお尻が浮くように膝の外側に体重を乗せていく。胸椎と股関節を回しながら中殿筋に刺激を与えるこの動きは、走行中に膝が内側に入ってしまう方にお勧め。けがの予防になり、さらに推進力も高めることができる。

最後に紹介するのは、お尻と太ももを鍛える「スプリットスクワット」。両膝を立てた状態から片足を出す。前足の膝は90度、後ろの膝は体から真っすぐ下に下ろした状態にし、つま先を立てる。
両足で床を押すように、反動なく立ち上がったら、6秒ほどかけて床に膝が着くまでゆっくりと下ろす。10回ほど繰り返したら、脚を反対に変えて行う。
太ももの筋肉を鍛えることで着地時の衝撃に耐え、ひいては関節の保護、痛みなどのトラブル予防も期待できる。お尻の筋肉は着地の衝撃を支え、推進力に変える働きがあり、効率的で疲れにくいランニングフォームにもつながるという。
高橋さんは「屋内でも、狭いスペースでもできる簡単な運動で取り入れやすい。最終盤のコンディション維持に役立ててほしい」と話した。
食事は疲労回復意識を お薦めは豚肉や大豆製品
スポーツ栄養士・友利由希さん
NAHAマラソンを走り切るには「食」も大事。万全の状態で試合に臨むため1週間前から本番当日にかけての食事方法や心がけて取りたい栄養素について、プロやアスリートに食事などを指導するロクト整形外科クリニックの管理栄養士、日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士の友利由希さん(37)にアドバイスをしてもらった。(聞き手=垣花きらら)
マラソンの練習も1週間前から当日にかけて調整するように、食事面でも体を管理し、調整することが大切。1週間前は体の疲労回復を支え、糖質を効率よくエネルギーに変換するビタミンBが多く含まれる豚肉料理や大豆製品などがお薦め。持久力を保つために必要な鉄分を取れるレバーも積極的に摂取しておきたい。練習で疲れて食欲が湧かないときは、食欲を促すクエン酸が含まれている梅干しやミカン、ご飯を酢飯に代えたりして調整しよう。
試合3日前からの食事は、おかず中心から炭水化物中心の食事に。約42キロの距離を走る場合、エネルギーは約1日分のカロリーを消費するといわれている。エネルギーの不足を防ぐため、試合前にあらかじめ筋グリコーゲンの貯蔵量を高めておく必要がある。丼物や焼きうどん、巻きずしなど炭水化物量を増やして。
前日は消化不足を防ぐため、油っぽいとんかつやステーキ、繊維の多い芋類などはできるだけ控えた方が良い。お酒は肝臓に負担を与え、脱水症状を引き起こし、摂取した栄養素も一緒に流してしまうため、飲まないようにしよう。
レース当日は、時間帯に合わせた栄養補給がポイント。消化に3~4時間ほどかかるおにぎりや麺類、パンなどは、スタート時間から逆算して、午前6時までには食事を済ませておきたい。それ以降はレース中の消化負担とならないバナナやゼリーなどでエネルギー補給を。
レース中は長い距離を走るので、水分と糖分の補給も心がけて。
熱中症や脱水症状予防のため、水分は15分置きに1杯が目安。レース90分以降は徐々にエネルギーが減ってくるため、スポーツドリンクや塩分タブレット、エネルギーゼリーなどで補給を心がけよう。