
一度に多量の飲酒をしたり、生活習慣病のリスクを高める飲み方をしたりする人の割合が全国より高い沖縄。アルコール性肝疾患で命を落とす率も全国の2倍を超えています。周囲は、お酒をやめたくてもやめられない依存症の人たちにどう向き合ったらよいのでしょうか。
沖縄県内の依存症専門医療機関の一つ、沖縄リハビリテーションセンター病院の犬尾仁医師に寄稿してもらいました。11月10日から16日はアルコール関連問題啓発週間。
(上)「飲むな」は禁句! 孤独の病・アルコール依存にどう向き合う
(下)日本一の“酒害県”・沖縄で 孤独の病・アルコール依存にどう向き合うか
「犬尾先生、比嘉さん(仮名)がアパートの前でつかみ合いになっています!」
外来診療中に支援施設の女性相談員からの電話が鳴りました。
比嘉さんは40代前半の男性で、アルコール依存症が原因で入退院を繰り返している患者です。沖縄出身の彼は貧しい境遇を乗り越えて、県外の国立大学を卒業後、一部上場企業に就職。異例のスピードでチームマネージャーに抜てきされ、マスコミに紹介されるまでに活躍していました。
しかし、度重なる飲酒問題が原因で退職。紆余(うよ)曲折の末に家族からも見限られ、ホームレス生活の中、閉店後の居酒屋に忍び込み、窃盗罪で逮捕されました。釈放後、市役所生活保護課の協力で、私の外来でサポートを受けることになりました。
その後も、彼の飲酒問題は続きました。今回は、大量のストロング酎ハイの空き缶の処分方法を巡って、隣人と口論となり、つかみ合いの騒ぎになったところに、定期訪問で訪れた女性相談員が遭遇したのでした。
すぐ現場に駆けつけて対応したかったのですが、そのとき私は外来診療中で、病棟には急変中の患者もいました。在宅みとりの患者やその家族対応など複数の案件も抱え、その余裕がありませんでした。
居合わせた女性相談員たちに現場対応を任せざるを得ず、結果的に警察対応となり、彼は暴行罪で2度目の逮捕となりました。私が以前の職場に勤めている頃の話で、もう10年以上前の話です。
沖縄県内では近年、アルコール依存症の問題が注目され、2018年には「沖縄県アルコール健康障害対策推進計画」が立案されました。医療機関や相談窓口、自助グループの拡大など支援体制は少しずつ拡充されつつあります。
私が所属する沖縄リハビリテーションセンター病院でも、2022年に新しくアルコール依存症専門の病棟を新設し、積極的に患者を受け入れています。
しかし、依然として支援の不足が問題になっています。最大の難点は、一般市民や医療者を含む支援者の依存症についての理解と経験が不足していることにあります。
依存症に苦しむ患者は、周囲の迷惑を顧みることなく、酒や薬物、ギャンブルなどに没頭します。いくら、指導や忠告をしても、恐らく聞き入れることは難しいでしょう。問題を巻き起こしながら依存行動を続けます。
その結果、支援者や家族は患者の依存行動を「うそつき」「だらしない」「不潔」「迷惑」といった負の印象で捉え、既に困難な状況にいる彼らをさらに「自業自得」とばかりに遠ざけてしまいます。かつては私自身も同じ感情でした。
しかし、依存症は「意思」や「人格」といった、いわゆる「精神論」の問題ではありません。多大なるストレスを抱え、その対処法を知らないまま孤立してしまう人々が陥る「病気」なのです。
彼らの生活背景を調査すると、...