第49回新沖縄文学賞(主催・沖縄タイムス社)の最終選考が9日、那覇市の沖縄タイムス社であり、選考結果、受賞作の選出はなかった。受賞作がないのは23年ぶり。佳作に諸見里杉子さん(52)=那覇市=の「ギンネムの記憶」が決まった。
今回は25点の応募があり1次選考で選ばれた5点を又吉栄喜(小説家)、本浜秀彦(文教大学教授)、赤坂真理(作家)の3氏が審査した。贈呈式は来年2月に予定している。
諸見里さんは初めての応募。死者の声が聞こえる主人公の話を書いた作品には「沖縄戦体験者の母の思いも込めた」という。
自身は戦の記憶を継承しないといけない世代だと強調し「読者に伝わる内容か不安もあったが、両親の思いもくんでもらう形で評価されてうれしい」と話した。
又吉栄喜さんの話 世界中で戦争があり沖縄も戦争が迫ってくる時代に出てきた作品。恨みつらみではなく、のどかな郷愁を醸し出しており、戦争の悲惨さや残酷さではなく人の悲しみが伝わる。これまでとはひと味違う、新しい沖縄の戦争小説として評価できる。
本浜秀彦さんの話 本賞の受賞作を出せなかったのは残念だが、新沖縄文学賞のこれまでの歩みをしっかりと押さえつつ、有意義な議論ができた。新しい書き手の登場もあり、連綿とつながってきた新沖縄文学賞の特長もよく出ていた。
赤坂真理さんの話 「ギンネムの記憶」は戦争の一つの真実を描いた新しい戦争文学への試みだと思う。(佳作には届かなかったものの)「目の前にいなければ」は、父性や男性性の喪失という現代日本に共通するテーマを扱っていて、力強さを感じる作品だった。
(写図説明)諸見里杉子さん