一度に多量の飲酒をしたり、生活習慣病のリスクを高める飲み方をしたりする人の割合が全国より高い沖縄。アルコール性肝疾患で命を落とす率も全国の2倍を超えています。周囲は、お酒をやめたくてもやめられない依存症の人たちにどう向き合ったらよいのでしょうか。上下の2回に分けて、沖縄県内の依存症専門医療機関の一つ、沖縄リハビリテーションセンター病院の犬尾仁医師に寄稿してもらいました。11月10日から16日はアルコール関連問題啓発週間。

(上)「飲むな」は禁句! 孤独の病・アルコール依存にどう向き合うか
(下)日本一の“酒害県”・沖縄で 孤独の病・アルコール依存にどう向き合うか

 沖縄は、人口10万人当たりのアルコール性肝疾患による死亡率が、男性20.6人、女性3.4人で全国ワースト1位です(2021年人口動態統計)。全国平均は男性で8.7人、女性で1.3人。沖縄の多さが際立ちます。

 都道府県別の平均寿命で1990年に全国1位を誇った沖縄県男性は、2020年には43位に転落しました。詳しく見ると「49歳以下の男性の死亡率」は全国上位。その死因の2位と3位は「肝疾患」と「自殺」で、どちらにもアルコール問題が深く関わっています。

 20年前のことですが、研修医時代にある学会で他県のドクターと話した際、県外では肝硬変の原因として最も多いのがB型肝炎やC型肝炎をはじめとするウイルス性だと聞き、驚いたことがあります。県内では、当時から、アルコール性肝炎が圧倒的に主流だったからです。

「孤独の病」ともいわれるアルコール依存症。立ち直るきっかけが見つからず、生活が破綻してようやく医療につながるケースもある
「孤独の病」ともいわれるアルコール依存症。立ち直るきっかけが見つからず、生活が破綻してようやく医療につながるケースもある

 さまざまなデータや現場の実感を踏まえても、「沖縄県は日本一の酒害県」と言っても過言ではありません。

 そもそも、私が沖縄でアルコール依存症に関わるようになったきっかけは2010年ごろ、私の内科外来の通院患者に断酒会会長(当時)のTさんがいらっしゃったことでした。私はT会長に患者(以下、Aさん)の愚痴をこぼしました。

 「酒を飲むなって言っても聞いてくれないんですよ…」

 するとT会長はおっしゃいました。

 「じゃあ私から話してみましょうか?」

 私に代わって、病棟の依存症患者と話をしてくださることになりました。2人で病室に向かい、T会長が、入院中のAさんに話しかけます。

 「酒はなかなかやめられんヨな…」

 共感的に語りかけるT会長。すると、なんと、私にはロクに目線も合わせてくれないAさんが耳を傾けています。

 「断酒会に来てみるか?」

 T会長はAさんを断酒会に誘いました。このとき、私も初めて断酒会を見学し、回復しつつある他の依存症患者さんの話を聞くことができました。その内容は衝撃的で、大きな「成功体験」となり、今の仕事に至るきっかけになりました。

 悲惨極まりない壮絶な「酒害告白」もさることながら、人が人でなくなるような肝性脳症や黄疸(おうだん)・腹水貯留をも伴う重症肝硬変にまで陥ったアルコール依存症の患者が、断酒によってここまで回復するとは!!!!

 「ここに来れば回復できる」「ここに連れてこなければ」

 依存症から回復した現実を目の当たりにし、私は猛然とやる気になりました。

 「依存症の治療には断酒会などの自助グループが有効である」。国家試験の知識としては知っていましたが、初めてその本当の意味を実感し、理解しました。

 前回触れた、患者を「底つき」に追いやることなく、回復に促す方法。それが、まさにT会長がAさんに対して行った「動機づけ」のアプローチで...