「母を安心させたいけど兄の人生を犠牲にはできません」。弊社には年間約100組のお客さまが不動産相続の相談にいらっしゃいます。沖縄の相続には二つの特徴があります。相続財産において不動産資産の割合が多く現金が少ないこと。もうひとつは先祖崇拝に伴うトートーメー承継の風習から、家も財産もすべて長男が継ぐことを良しとする慣習が根強いことです。

 先日相談にいらっしゃったAさんは80代の母と県外に住む兄(以下長男)がいます。Aさんは近所に住む母の世話やお盆などの仏壇行事も積極的に携わっています。50代の長男は20代から県外に移住し、結婚し家も建てました。長男は母の希望で数年前に家族と帰沖し転職活動を行いましたが、条件面で折り合いがつかず、妻の強い希望でまた県外へ戻りました。

 高齢で病気がちになった母は「トートーメーもお墓も長男に継がせないとご先祖さまに合わせる顔がない」と嘆いています。しかし長男は「沖縄で生活できる自信がない。Aが全て継いでほしい」との一点張りで、お盆や正月も沖縄に帰らなくなりました。板挟みになったAさんはすべてを継ぐことも考えたのですが、将来自分の子が継ぐことを思うと二の足を踏みます。

 「お母さまには、落ち着いたら長男が沖縄に戻って実家もトートーメーも継ぐから安心して、と伝えてください。お母さまが亡くなったらAさんに負担のない範囲で実家と墓と仏壇を管理して、時期がきたら実家の処分と仏壇じまい墓じまいをしましょう」。お母さまを安心させること、長男の人生を犠牲にしないこと、Aさんの負担を取り除くこと。この三つすべてをかなえるには、優しいうそが必要です。

 さまざまな事情で墓じまいや仏壇じまいをする家庭は増えています。しかし伝統や慣習を重んじるお母さまに本当のことを伝えてつらい思いを強いることに意味はあるでしょうか。うそも方便という言葉があるよう、相続の現場では優しいうそが必要な場面があります。スッキリとした表情で弊社を後にするAさんの後ろ姿が物語っていました。(エレファントライフ代表)

 次回は野々村充教氏(コスモフーズ社長)です。