うりづんの季節なのに、数日前の暑さは夏の猛暑さえ予感させた。まだ太陽の強い日差しになじんでない肌が悲鳴を上げた
▼一服の清涼剤となったのは5日付本紙に掲載された月食。文字で表現するのはやぼに違いないのだが、欠けゆく月を背にした飛行機の影がくっきりと写り込み、幻想的な世界へと誘った
▼皆既月食の夜に那覇の上空で雲に覆われた月が顔を出した瞬間、横切る飛行機を捉える確率はどのくらいだろう。紡がれてきた数々の物語に登場するお月さまと、鳥のように空の移動を可能にする飛行機のコントラストは、郷愁と解放感とロマンをかき立てる
▼現実に戻すと、これから蒸し暑い季節がやってくる。晴れた日に月や星を愛(め)でるには、屋外にいすを出し涼みながら眺めるのが一番だが、所変わってシンガポールでは屋外での飲酒が今月から禁止された。違反者には約8万7千円以下の罰金が科される
▼施行前夜には川べりでビールなどを楽しむ人がたくさんいたという。もっとも禁止の理由は住民からの騒音やごみの苦情というから、風情を楽しむというより、もっぱら飲んべえと化す市民対策なのだろう
▼気がつけば、真冬の1月に発生した台風は既に5個目だ。自然と遠い暮らしを送っている間に、経験で知った自然も遠い存在になっているのかもしれない。(与那嶺一枝)