「あなたの親戚が被災して、救援を求めてヘリをチャーターしました。費用を代わりに支払ってください」「5億5千万円が当せんしました。受け取りにお金が必要なので送金してください」ー。人間の不安や欲望をあおる特殊詐欺が、沖縄県内で急増している。2023年は被害額が2億円に達し、件数も前年の3倍超と突出した。犯罪心理学に詳しい泊真児・琉球大学教授に特殊詐欺の手口や防止策を聞く連載の<上>は、「自分がだまされるはずはない」と思っていても被害に遭う原因や、詐欺犯が使う心理テクニックなどを取り上げる。(デジタル編集部・新里健)

【下】はこちら>>マインドコントロールされて忠告が耳に入らない被害者 特殊詐欺に遭わないための心構えは?【チェックテスト付き】

 

 沖縄県警によると、2023年の特殊詐欺の被害は48件で総額は約2億円。2018~22年は15~25件、被害額は約2000万~9270万円で推移したのと比べると、23年は近年になく被害が多い年となった。2024年もすでに5件、計約4800万円の被害が出ている。周囲に相談しなかったり、被害届を出さなかったりする人もいて「実際の被害者はもっと多いのではないか」と推察する。

2023年は特殊詐欺の被害額・件数ともに急増した
2023年は特殊詐欺の被害額・件数ともに急増した

 県警が詳細を公表済みの昨年1~8月の28件の内訳は、パソコンのトラブルなどを装った架空料金請求詐欺が15件を占め、投資や未公開株、外国通貨の購入を勧める金融商品詐欺が8件で続いた。被害者の年代で最も多かったのは40代で、全体の約3割を占める。高齢者が多いイメージを抱きがちだが、20代から70代まで、満遍なく被害が出ているという。

 そもそも、人はなぜだまされるのか。泊教授が挙げたのは、誰しもが「正常性バイアス」を持っているからだ。「自分だけは大丈夫」「詐欺に遭うはずはない」と思って、心の平常を保とうとする心理を指す。このバイアスのせいで、急に電話がかかってきたり、ショートメッセージやダイレクトメールが届いたりといった「不意打ち」を食らうと、相手を疑うという気持ちが働きにくくなるという。

 人間は不意打ちを食らうと無防備になり、相手の言うことをうのみにしやすくなる。そこで「今すぐ金を振り込まないと逮捕される」「裁判になる」と恐怖心をあおられると、しばしばパニック状態に陥る。その状態で「今、手続きすれば間に合う」などと解決策を提示されると、「この人の言うことを聞けばきっと助かる」「早く解決したい」とすがる気持ちから、だまされてしまうのだという。

心理学を専門とする、琉球大学人文社会学部の泊真児教授。特殊詐欺の被害者の多くは、加害者から「衝動モード」へと誘導され、言われるままに行動してしまう傾向があるという=2023年9月、沖縄県西原町千原の研究室
心理学を専門とする、琉球大学人文社会学部の泊真児教授。特殊詐欺の被害者の多くは、加害者から「衝動モード」へと誘導され、言われるままに行動してしまう傾向があるという=2023年9月、沖縄県西原町千原の研究室

 「甘い話」も同様だ。「高配当は確実です」などと金融商品の魅力を吹聴されると、「得したい」という欲望があおられ、心のハードルが下がる。その状態で「絶対にもうかります」「チャンスは今回限り。先着順で締め切ります」などと畳みかけられると、多くの人が「早く大きな利益を得たい」という気持ちから、つい...