裁かれたのは、日本社会に巣くう長時間労働という企業文化である。判決は、労務管理の在り方など電通の体質を厳しく指摘したが、一企業批判で終わらせてはならない。

 2015年12月に新入社員の高橋まつりさん(当時24歳)が過労自殺したことに端を発した違法残業事件で、東京簡裁は労働基準法違反罪に問われた法人としての電通に求刑通り罰金50万円の判決を言い渡した。

 労働事件では異例の正式裁判である。

 判決は高橋さんら社員4人の違法残業を認定した上で「尊い命が奪われたことは看過できない」「違法な長時間労働が常態化していた」と批判した。

 「会社の刑事責任は重い」との指摘は、14、15年に労働基準監督署から是正勧告を受けたにもかかわらず、労使協定(三六協定)で定められている残業時間の上限を引き上げる弥縫(びほう)策で違法状態を解消したからである。

 増員や業務量削減といった抜本的対策を取らなかったのは、会社の利益を優先し、労働者の健康に無頓着という企業体質を浮き彫りにするものだ。

 違法残業事件を巡っては、「取り組んだら放すな、殺されても放すな」など社員の心構えを示した「鬼十則」にも批判が集まった。過酷な労働実態が明るみに出たことで、社長交代も余儀なくされた。

 社員の健康管理の軽視は、企業の信用を低下させるばかりか、経営の根幹をも揺るがしかねない。

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 「会社の深夜の仕事が、東京の夜景をつくっている」。深夜残業がまん延している職場の異常さを、まつりさんは母親の幸美さんに語ったそうだ。

 幸美さんは初公判後の記者会見で「娘は(長時間労働が)当たり前、やらない人はモチベーションが弱いと追い込まれた。社員、クライアントが狂った常識で回っていた」と話している。

 電通は午後10時以降の全館消灯を決めるなど、働き方の見直しを進めている。取引先には勤務時間外の仕事は受けられないと知らせているが、全員から理解を得るのは難しいという。

 長時間労働が常態化する宅配業界で最近、配達時間帯を指定するサービス縮小の動きがあった。利用者に過剰なサービスの再考を投げ掛けるものだ。

 働き方改革は、私たち自身が変われるかどうかの問題でもある。

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 判決がでる直前、NHKの女性記者が13年に過労死し、翌年労災認定されていたことが明らかになった。選挙取材に追われていたといい、亡くなる直前1カ月の時間外労働は159時間に上った。

 メディア業界の長時間労働は以前から指摘されている。事件や災害などに敏速に対応し報じる社会的使命と労働時間のバランスを取ることは容易ではないが、公共性が高いからといって働き過ぎが許される理由にはならない。

 日本的働き方が根底から問われていることを肝に銘じたい。