タイムス×クロス コラム

【高江ヘリパッド刑事裁判(下)】被告席に立つべきは国 差別の道具になった法

2017年10月15日 22:03
森川 恭剛
森川 恭剛(もりかわ やすたか)
琉球大学教授

もりかわ・やすたか 1966年名古屋市生まれ。琉球大学教授。著書に「ハンセン病と平等の法論」「性暴力の罪の行為と類型-フェミニズムと刑法」など。

(中からの続き)

N1裏テントから北側のバリケード上に貼付された警告札=2017年6月(筆者提供)

 沖縄県民の負担軽減のための基地移設事業が妨害されたとして、県民とその支援者が逮捕され、訴追される。しかし、これは逆ではないか。高江や辺野古では沖縄県の意思に反して基地建設が強行され、負傷させられた者も少なくない。裁判官はこの不正(差別被害)を直視せねばならない。

違法工事に蓋

 沖縄防衛局は、職員(当時42歳)が暴行を加えられ、負傷させられたとする昨年8月25日の事件当日、林野庁から使用許可を得たFルート(旧林道)と農道の境界にフェンスを設置し、さらに被告人らの使用するテントを撤去する予定を立てていた。テントは、その境界のFルート側にあり、ちょうど境界線上に出入り口を設けていた。それは工事用車両の通行の妨げになっていたという。

 それゆえ沖縄防衛局は境界明示用のフェンスを設置し、テントの出入りを不能にした上で、これを撤去しようと考えた。しかし、「本件が発生したことで、フェンスの設置すらできなかった」。つまり被告人らは、フェンス設置という職務を妨害した。このように被告人Aに対する有罪判決は述べた。

 しかし本件自体は2、3分間の出来事であり、本件とフェンス未設置の因果関係は明らかではない。沖縄防衛局はフェンス設置のためにテント出入り口付近に人垣を作るなどしていたが、その人垣が崩れたために、テントは出入り可能になり、本件がテント内で起きた。本件の発生前に、すでにフェンスは設置困難になっていた。なおAの公判供述によれば、その人垣の奥で、防衛局職員は単管パイプやテント部品を取り外し、テント撤去に着手していた。

 判例によれば、公務員に加えられる暴行・脅迫は職務執行の妨害となるべきものであれば足り、現実の妨害結果を要しない。それでも前述の判決が、設置妨害の結果に言及したのは、フェンス設置とテント撤去を分離し、沖縄防衛局は前者の職務を適法に遂行しようとしたにすぎないとする趣旨だろう。つまり、テントの強制撤去の適法性に関する判断を回避したかったのである。こうして裁判所は沖縄防衛局の違法工事に蓋(ふた)をして不当逮捕を追認した。

テントの撤去

 しかし判決も認めるように、「テントの撤去に至る可能性はあった」。それゆえ職務の適法性に関する錯誤の論点が残る。被告人らは、テント撤去は違法だと考え、それを恐怖していたので、防衛局職員らの来訪目的を問いただす必要があった。だから書類を「見せなさい」と求めた。

 昨年7月22日に強制撤去されたFルート入口(N1ゲート)のテント等は、北部訓練場内の共同使用区域(県道70号線)にあった。それゆえ基地の「提供」に関する事務をつかさどる防衛省は、道路法上の代執行の手続きを経ることなく、強制執行する職務権限があると考えた。基地に対して米軍が万能の権限をもつように、防衛省が共同使用区域の「排他的使用権」をもつと解するならばそうだろう。それは防衛省が主権免除の超憲法的な特権を手にするということである。

 これに対して本件8月25日のN1裏テントは、基地内にあったのではない。それゆえ沖縄防衛局は行政代執行の手続きを要した。しかし工期短縮のために裁判を待つ時間がないので、フェンスを設置し、Fルートを立ち入り禁止にした上で、テントを撤去しようとした。この一連の段取りが刑法的保護に値しない法的瑕疵(かし)を有することは一目瞭然である。

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