【北中城】北中城村安谷屋の言葉の発音には「だ行」が存在しない。沖縄本島中南部のしまくとぅばで「あだんなんちゅ(安谷屋の人)」と発音するのを安谷屋では「あらんなんちゅ」となる。共通語の場合「こども」は「ころも」になる。「だ」と「ら」の区別がつかず、ばかにされたり、発音を直された経験のある人も。しかし、現在は、その異なりを魅力と位置付けて、愛着ある地域のしまくとぅばとして次世代に伝える取り組みが始まっている。(中部報道部・比嘉太一)

字誌の編集会議で安谷屋の言葉について議論を交わす編集員のメンバー=24日、北中城村安谷屋公民館

 24日午後8時。村安谷屋公民館には地元の区民ら7人が集まり、2019年に発刊する安谷屋字誌の編集会議が開かれた。500ページ以上に及ぶ字誌の編集作業には約25人が関わる。字誌は5章構成で、歴史や自然、祭祀(さいし)、移民などを記録する。

 同日は第2章で、言葉や屋号、門柱、伝統芸能などを記述する「安谷屋の特徴」の内容について話し合った。「だ行」が存在しないことを地域の言葉として記録することに関し議論した。

 グループ長の安谷屋の安里幸男さん(77)は、「戦前から戦後にかけて、安谷屋で育った子、誰もが備え持つ個性的な言語文化。私たちのアイデンティティーであり、誇りだ」と説明した。字誌には発音にまつわる体験談をまとめる予定だ。

 金城直義さん(67)は「小学生の頃に先生からの指摘で初めて『だ行』の存在を知った」と笑う。教科書を音読した際に、先生から指摘を受けた。学校には地域の友人が多く、さして気にもしなかった。

 中学生に上がると、通学区域も広がり、安谷屋以外の生徒も増えた。担任は、金城さんを含め、安谷屋の生徒5、6人を放課後に集めて、発音指導をした。教科書の通りに読むのだが、違うと指摘を受け、苦労しながら発音を直した。

 「その時に自分の発音が悪いんだと本気で認識してしまった。他の人とは違うという戸惑いもあった」。劣等感を抱かせられた苦い体験を振り返る。近年のしまくとぅばの復興の広がりで、シマごとの違いが広く共有されるようになった。金城さんは、「安谷屋の発音が今では自分たちの個性として尊重できるものになっている」と強調する。

 安里さんは「他地域の人が、安谷屋の人のことを『アランナオーラー(オーダー=もっこ)』と呼び、ばかにしていたよ」と苦笑いする。「今では安谷屋の代名詞的言葉で、安谷屋の文化。字誌に記録して、次世代にも伝えたい」と笑顔を見せた。

 これまで多くの字誌を手掛け、安谷屋字誌の編集に関わる宜寿次政江さんは「字誌の中に言語文化を自分たちの個性として捉えた内容をまとめるのは珍しい」と話す。

 狩俣繁久琉球大教授(琉球語学)は「安谷屋のように発音にかかる語中の『だ行』と『ら行』の区別がなくなってしまっている地域は沖縄本島の一部で見られ、特に本島南部で見られる」と説明。「字誌に記録することで地域が絆の強い社会を築くことにつながる」と意義を語った。