大企業に女性登用に向けた数値目標の設定と公表を義務付ける女性活躍推進法が成立した。
「女性が輝く社会の実現」を掲げる安倍政権の重要政策の一つだが、働く女性の6割近くを占める非正規雇用など「普通の女性が輝く」視点は薄い。
新法の柱は国や地方自治体のほか、従業員が300人を超える企業に義務付ける数値目標である。
対象となる企業は女性の採用比率や管理職比率、男女の労働時間や勤続年数の差などを把握した上で、改善に向けた数値目標や取り組みを行動計画にまとめ、公表しなければならない。
厚生労働省の2010年度の調査で、新卒採用時に女性を採用しない企業が4割に上っていた。管理職・役員に占める女性の割合は14年時点で11・3%と、40%前後の欧米に比べ著しく見劣りしている。
数値目標の設定による「見える化」は、企業に改善を促す力となる。それによって採用や昇進が増え、男性中心の企業風土が変われば、1985年に制定された男女雇用機会均等法以来の大きな動きとなるだろう。
一方、労働組合側が強く求めていた男女の賃金格差は把握すべき項目に盛り込まれなかった。従業員300人以下の中小企業では数値目標の設定も努力義務にとどまっている。
「私たちの法律ではない」と、冷めた目で見る女性が多いのは、そのためだ。
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女性の活躍を看板に据える安倍晋三首相の鶴の一声で検討が始まった法案である。
活躍して悪いことはないが、少子高齢化で先細る労働力を補おうと、成長戦略の手段のように女性の活躍が語られることに引っかかりを感じる人は多い。
ダボス会議で知られるシンクタンク、世界経済フォーラムがまとめた2014年版「男女格差報告」で、日本は142カ国中104位と低迷する。国会議員の数など女性の政治参加が進まないほか、男女の賃金格差など労働分野の指標が影響したためという。
新法で政府が賃金格差に踏み込まないのは、企業の声を配慮してのことだろう。
しかし女性の賃金は男性の7割にとどまるなど深刻である。
このまま賃金格差が是正されなければ「低賃金で大活躍を迫られる」ことになりかねない。
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成立した新法は、仕事と子育ての両立に向けた環境整備もうたっている。
仮に女性の登用が進んでも、男性の育児、家事にかかわる時間が短いままでは、両立は困難である。パパたちの育児休業の取得をはじめ、長時間労働の解消など働き方の見直しを求めたい。
政権の目玉政策として女性の能力を生かそうというのなら、能力が十分発揮できる公正な環境を整えるべきだ。
経営者の意識改革を促し、企業の取り組みを後押しする、首相のリーダーシップが問われている。