出張した足で、東京都美術館で開催中のゴッホ展を見た。二十数年ぶりの邂逅(かいこう)。ゴッホの作品を初めて見たのは英国ロンドンのナショナルギャラリーだった

▼ヨーロッパ中の名画を集めた美術館は入館が無料ということもあって、留学していたころ何度も足を運んだ。好きな画家や作品は数多(あまた)あったが、絵を前に感極まって泣く、という経験をしたのはゴッホだけだった

▼「ひまわり」などの代表作は画集で見ていたが、生の絵の迫力は想像をはるかに超えた。強く、厚く、生々しい筆の跡。絵の中から作者の熱情が炎となってこちらに向かってくるような圧倒的なエネルギーに満ちていた。そのエネルギーの原動力は何だったのか

▼ゴッホはその波乱の生涯でも知られる。さまざまな職に就くが挫折し、最後に画家の道にたどりつく。今では天文学的値が付く作品だが、生前売れたのはわずか1枚。画家ゴーギャンとの共同生活が破綻し、自らの耳を切り落としたのは129年前の今日、12月23日のことだった

▼ゴッホ研究者の圀府寺(こうでら)司さんは、気難しさと真剣さゆえに妥協することができず、人とぶつかり、社会に適応できず、残された画家という仕事にすべての力を傾注したと指摘する

▼生きた時代も場所も違う画家の人生に思いをはせ、共感する。芸術家の情熱が人を吸引する。(高崎園子)