〈それにしても「トーファー」という名称があったとは。まるでサーフアーみたいで、実に響きがいい〉。とっても豆腐が好きな人のことを「トーファー」という。琉球王朝の末裔(まつえい)の尚順男爵が随筆「豆腐の礼賛」でそう書いてあることを見つけた宮里千里さんは、新鮮な驚きを覚えたという。そして思った。私はトーファーになりたい、と。

シマ豆腐紀行-遥かなる〈おきなわ豆腐〉ロード(ボーダーインク・1728円)

 1991年に『アコークロー』で、エッセイストとして鮮烈なデビューを飾った千里さんは、その後『シマサバはいて』『沖縄あーあー・んーんー事典』と沖縄の文化・世相を絶妙に切り取ったエッセー集を上梓(じょうし)してもらった。録音機材を持ち、琉球弧の島々にココロ揺らす民俗学的な視点、アジアを中心に世界あまくま旅する体験記、都市と村をつなげる食文化への深い造詣と、食いしん坊ならではの行動力。どの本もお薦めなのだが、この『シマ豆腐紀行』は、その究極ともいえるノン・フィクションである。

 沖縄料理の土台たるシマ豆腐が好きすぎて、その魅力と秘めた歴史をアピールするために、世界中のシマ豆腐(ウチナーンチュがいるとこころにシマ豆腐が存在する!)を追い求めて、沖縄、南米、東アジア、ハワイ、日本と旅を続けた千里さん。本文よりもボリュームがあるじゃないかと思いたくなる脚注の多さは、ひとえにシマ豆腐への愛の強さである。

 〈これは恋することに似ている。いろんな場面で豆腐に思いがいってしまう。寝ても覚めても、ということに近いかも〉とわざわざ脚注(ゆんたくひんたく)で述べている。

 食と旅、音楽と人、沖縄とアジア、そして世界へつながる旅への飽くなき好奇心。これはその娘にも遺伝したらしく、先頃初めてのエッセー集を刊行した宮里綾羽著『本日の栄町市場と、旅する小書店』も食と旅は大きなテーマだった。綾羽さんがトーファーかどうかは、まだ確かめていないけど。(新城和博・ボーダーインク編集者)