日米地位協定を変えられないのは日米同盟の片務性という足かせではなく、結局のところ日本人の主権意識の弱さ、無関心に原因がある。

主権なき平和国家(集英社クリエイティブ・1620円)

 米軍に守られ、片務的な同盟だから地位協定の不平等は甘受すべきだとの現実論がある。しかし本著はその思考はなんらかの主体性を持ったリアリズムに基づく判断などではなく、単に永続的な「半占領国家」の諦めであり、「主権放棄」だと断じている。

 著者は国連PKOの“紛争解決請負人”で知られる伊勢崎賢治氏(東京外語大教授)とジャーナリストの布施祐仁氏。韓国、イタリア、ドイツなど米軍を受け入れる他同盟国に比べ日本は世界で最も米軍に寛容な国だと指摘する。戦後70数年が経過しても東京上空の広大な空域が米空軍の航空管制下にあるが、そんな国はほかにない。

 地位協定は駐留軍に免責特権を与えるもので、受入国の主権が削られることを前提とする。外国軍による事件事故が公務中に起きた場合は派遣国が裁判権を行使するし、出入国の手続き免除、租税免除など受入国の法律適用を除外するなどの特権を外国軍に付与する。免責が多いほど主権が弱められる。

 米軍機事故が基地外で起きた場合でも日本の警察は事故機にほとんど触れられない。本著によると、イタリアやイギリスはまず地元警察が事故機を差し押さえ、捜査した後に米軍が事故調査を始める。そんな当たり前の対応をせず、平時でも治外法権を米軍に与える日本は過剰なほどの寛容さだ。

 他国の場合、地位協定の改定は事件事故などで外国軍駐留に対する反対運動が広がり、米国も改定に応じざるをえなかった。本著が指摘するように集団的自衛権の行使といった米軍への軍事貢献とは無関係だ。日本人がそれに気づかず、主権侵害を看過し続けるのは、米軍基地を沖縄に押し込めたため、国民の関心事にならないためだと著者は分析する。

 論理的には主権を行使するために国家がある。地位協定による主権放棄は保守・革新など政治スタンスの別なく国民全体が向き合うべき問題ではないかと本著は問いかける。(屋良朝博・フリージャーナリスト)

 【著者プロフィール】いせざき・けんじ 1957年東京生まれ。東京外大大学院教授。元アフガン武装解除日本政府特別代表▽ふせ・ゆうじん 76年東京生まれ。ジャーナリスト。「ルポ イチエフ福島第一原発レベル7の現場」で平和・協同ジャーナリスト基金賞、JCJ賞