那覇の栄町市場に「宮里小書店」という小さな本屋がある。2013年、エッセイストで琉球弧の祭祀(さいし)の録音などでも知られる宮里千里さんが店を始めた。1年後、その娘である著者が副店長として店に座るようになった。

本日の栄町市場と、旅する小書店(ボーダーインク・1728円)

 本書の主役は栄町市場で働く人たちである。市場がにぎやかだった時代も、復帰後の静かな時代も経験してきた彼女たちは毎日店を開け、おしゃべりをして、つらそうな人が来れば気のきいた冗談で笑わせる。「明日も市場に来なさいよー」と言いながら。

 著者は隣の洋服屋さんと店先で鍋をしたり、閉店する化粧品屋さんの思い出話に胸をうたれたりしながら、どんどん市場に魅せられていった。毎日の新鮮な驚きが、飾らない言葉で綴(つづ)られている。

 タイトルの通り、本書のもうひとつの核は旅の話だ。旅の記憶の中心にはいつも人がいる。そこで出会った人のつぶやきやちょっとしたしぐさが、その国を忘れられない場所にすることがわかる。

 それから本の話。登場人物に感情移入し、作者本人と顔をつき合わせるかのような熱っぽい読書ぶりが伝わってくる。旅と読書は人に出会うという点では同じなんだと気づかされた。

 そして家族の話。幼いころにふたりでアジアを旅した父と、大切な本を分かちあってきた母。旅や本の喜びを教えてくれたのは両親だった。

 やがて旅先の市場から地元の市場に戻って店番を始めた著者は、たくさんの出会いに恵まれる。お客さんと本の話をし、市場の店でおいしいものを食べては喜ぶ。まるで旅人のように目を輝かせて。

 著者は「いつもここではないどこかに行きたがる」子どもで、家出をくり返していたらしい。なのに栄町市場には3年半座り、いまも座っている。すごいことだ。旅するように日々を暮らせる幸せが、この本には満ちている。

 いつも旅先みたいに新鮮で、何度も読める本のような市場の魔力に、読者もとりつかれるだろう。(宇田智子・古本屋店主)

 【プロフィール】みやざと・あやは 1980年、那覇市生まれ。多摩美術大学卒業。2014年4月から宮里小書店の副店長