選択肢の間で、ペンは揺れ続けた。名護市長選の投票を終えた人にお願いした出口調査。調査票の候補者名にすんなり丸を付けた後、考え込んでしまう姿が目立った

▼「辺野古移設には賛成ですか」。5秒以上迷って、ペンを投げ出す人がいた。20年以上翻弄(ほんろう)されてきた名護では単なるアンケートではない。それは時に生き方の選択になり、呼び起こされる痛みがある

▼新基地に反対でも渡具知武豊氏に投票した人、自民党支持でも稲嶺進氏に入れた人、一緒に来て違う選択をした夫婦。担当した3時間で書いてもらったのは103枚。ほぼ同数が回答自体を避けた

▼出口調査の一番の目的は当確を速報すること。ただ、合同調査した共同通信のベテラン担当記者は「名護は予測が非常に難しい」と話す。市民の決意と迷いが入り組み、地層のように折り重なって、安易な分析を許さない

▼名護の地名は和やかな湾に面していることが由来だとされる。古謡集「おもろさうし」にも日本語の和やかに対応する琉球古語「なごやけて」がある

▼単に状態を指す和やかとは少し違う、と故外間守善氏は著書「南島の神歌」で解説した。「和やかであってほしいという海への切実な願望」「乞い願い」が込められている、と。市長選は終わった。市民の祈りは届くか。波が静まるのはいつだろうか。(阿部岳