米軍基地内で働く人の視点で書かれた小説は、そう多くはないだろう。この作品は、筆者が基地就労の経験が結実したものといえる。主人公の広子の心の機微はもちろんだが、職場の環境やそこでのやりとりが、丁寧に描写されている。基地内部の現実が見えるようである。

基地と心中(1188円・文芸社)

 展開の早さも心地がいい。たたみかけるように進むのだが、文字面の読みやすさと相まって一気に読了する。

 物語の始まりは、広子が米軍基地住宅に興味を抱くことから描かれる。中学の頃より好きだった英語を学び直したい。生の英語に触れたいと、職場を基地に求めて飛び込むのだ。

 あこがれは、内在する才能を発露させる推進力である。広子は持ち前の向学心と行動力で、更なる高みを目指すのだった。

 夫である清の人権をないがしろにする性的暴力と、職場の上司であるスミス氏の自らの欲望を抑えた気配りに、双方の社会風土の違いを象徴させているようにも思う。他にも、沖縄社会とアメリカ社会の象徴性を思わす幾つかの事象は配置しているものの、その違いや問題点を、特に、書いているわけではない。意識的にそうしたと考えられる。

 登場する人々は、学校を中心とする先生や生徒とその保護者であり、あるいは基地内における教育機関の運営に当たる人物たちである。それであるだけにまた、基地の外との較差が鮮明に表れているといえばそうである。

 米軍基地にまつわる物語は、内と外では大きな違いを呈するだろう。そうであろうが、そのどちらにも普段の営みがあり人々の日常は平和的である。

 人生を豊かなものにするのだと決意して、「基地と心中するつもりで…」と覚悟した広子の生き方は、「あなたのようなバイリンガルを探していた」という院長の言葉で報われる。そうではあるが、広子のそのがむしゃらさは、少し痛ましさも覚える。

 読後の余韻は、ある方がいいのだ。(名嘉睦稔・画家)

 【著者プロフィール】すえよし・せつこ 1937年伊是名村生まれ。92年「アメリカンスクール」で第13回沖縄タイムス出版文化賞受賞