◆もちきび、いいね

 食材とのすてきな出合いもあった。斎藤さんは、離島の文化や自然を体験する沖縄県のモニターツアー「島あっちぃ」に参加し、渡名喜島を訪ねた。島の女性たちから、完全無農薬栽培のもちきびを紹介され、早速メニューに取り入れてみることにした。

 白米に混ぜて食べるのが一般的なもちきびだが、黒糖やシークヮーサーと合わせてチーズケーキにしたり、根菜とともにスープにしたり。斎藤さんのアイデアから生まれたメニューは、渡名喜村長にも喜ばれ、島の特産品にしたいという話も出たほどだ。

渡名喜島のもちきびを使用した「もちきびチーズケーキ」

 ところが渡名喜島には農協がないので、当初はもちきびの仕入れが難しかった。離島フェアでまとめ買いをしたほどと笑う。その後は村役場と話がつき、仕入れを確保できそうだという。

 なので、トックリキワタ珈琲店では、もちきびメニューが売り切れている場合もあり得るからご注意を。

 その日はもちきびを使ったシークヮーサーチーズケーキが並んでいたので、迷わず注文した。もちもちした食感と、ほんのり香るシークヮーサーの匂い。欲張りな私はひとくち食べたあと、「太っても、もういい!」と心に決めてお持ち帰り用も即決した(フードメニューのテークアウトは10%引き♡)。

 
 
こちらが、ブランチセットの組み合わせの一例です!

 チーズケーキにはラッキーなことにありつけたが、ブランチセット(好きなフードとドリンク、本日のスープ、甘酒ヨーグルトフルーツ)は売り切れて頼み損ねたので、もちきびが入った根菜スープへの思いが募る(ブランチセットは店内のみ。ドリンクの種類で値段に変動あり)。

 私はこの日初めて、もちきびを食べたが、斎藤さんの手にかかれば、どんなメニューで食べてもきっとおいしいに違いないと確信した。

◆心地よい空間の秘密は?

 続いて、私をとりこにした、この空間の心地よさについて斎藤さんに尋ねる。

 「埼玉にいるときから、家具はちゃんと沖縄で作っているものがいい」と決めていて、ネットからオーダーメード家具の「Indigo(インディゴ)」を見つけた。ホームページをのぞくと、古材を使ったショーケースが目に留まり、「フードが並んだ様子が想像できた」という。

窓側の席に座れば、外からの光を十分に浴びつつ、ゆったりできる

 斎藤さんと宮田さんのお店のコンセプトは「淹れたてコーヒーと、ゆっくりできる年代と性別を超えた空間」だ。そう考えたとき、Indigoの家具はぴったりだった。

 より詳しく聞いてみよう。

 時間は2年ほど前にさかのぼる。物件探しで沖縄を訪ねた際、読谷村にあるIndigoのショールームも訪ねた。オーダーメード家具やカフェ事情など話は弾み、相談も丁寧に乗ってもらえた。埼玉に戻ってからは、メールのやりとりが続いた。当時、まだ仕事を辞められない状況だった斎藤さんに、Indigoから「急ぎでないのなら、一緒にお店づくりから始めませんか?」と提案を受けた。お店づくりが動きだした瞬間だった。

2人用の座席が並ぶトックリキワタ珈琲店。緑のアクセントもいい。

 斎藤さんと宮田さんはコンセプトやスローガンを全て書き出し、Indigoと共有。あとはイメージに近い写真やカフェの外観など、何でもいいからピンタレストにどんどん貼り付け、Indigoがそれをチェックしてイメージを視覚化。店内・水回り・トイレ・玄関のアプローチなど、「できあがったこの空間はイメージ以上になった」と笑う。

 家具に限らず、さまざまなアドバイスをもらった。カフェに欠かせない器もそうだ。

 当初は関東の焼き物市で集めた器を使おうと考えていたが、Indigoから「沖縄は焼き物の作家がたくさんいるし、地元のモノを使ったほうがウケがいい」と助言をもらい、方針転換。多くの作家を訪ね、「工房ことりの」を選んだ。グラスは歴史があり色味も気に入った、奥原硝子製造所にお願いした。

奥の席から眺めると、こんな感じ

 いま私が座る、この四角い空間。ここには斎藤さんと宮田さんが、自分の目で選んだものが並び、2人のこだわりをかたどっている。その選んだものの向こうにもまた、こだわりを持ってものを作る人々の姿が連なる。心地よい空間にうっとりする私に、「寝ちゃう人も創作活動する常連さんもいる」と斎藤さんはほほ笑む。

 ただ、何よりも大切にしたのは「自分たちの居心地がいい場所にしたい」という思いだという。背伸びした経営だと、自分たちが疲れ果ててしまう。すると、その雰囲気がお客さんにも伝わってしまうからだ。なるほどねと納得してしまう。

◆知ってもらいたいから

 テーブルにはメニューとともに小冊子が差し込まれている。宮田さんが写真、斎藤さんが記事、そしてデザインは斎藤さんの弟が担当した手作りだ。冊子では、この空間に収まり、トックリキワタ珈琲店を支える手仕事の店の紹介がされている。

こちらはメニュー表。温かみを感じますね。

 なぜここまでこだわるのか。

 その質問に斎藤さんは「こちらから話さない限り、これがIndigoの家具だとお客さんにはわからない。自分たちがお願いしていいものを作っていただき、それを使って商売する以上は、ちゃんとそれを世の中に紹介する義務がある」と真剣なまなざしで話す。「店と作家がつながり、シェアしあうことで互いにとっていい形になる」とも。

 11時を過ぎ、店にお客さんが増え始める。斎藤さんはその様子に目を配りつつも言葉を重ねる。

そして、こちらがオリジナルの小冊子。表紙には看板犬が。

 「たとえばすごく雰囲気がいい店でも、業務用スーパーで売っていると感じると、ちょっと興ざめしてしまうもの。自分たちは年齢も50代で、それで店を始めるんだったら、こういうこだわりは初期投資。手を抜かないでちゃんとしたものを置いたほうが、結果あとでぼろが出ることはないだろうなって。長く続けていくためにもそのほうがずっと無理がこないだろうなと思った」。