「雪が降ると、沖縄の子はすぐ分かる。窓の外ばかり見てぼんやりしてますからね」と、県外の大学教員から聞いたときは頬が緩んだ。ウチナーンチュの雪に対する憧憬(しょうけい)を凝縮している

▼長野県軽井沢町のバス転落事故に遭った女子学生2人も、一面の銀世界を頭に描いて深夜の長距離バスに乗り込んだだろう

▼大学の進路は広島と県内で違ったけれど、高校時代は同じ女子ソフトボール部で活動した親友同士。それが一瞬で暗転し、1人は命を奪われた。彼女を含め亡くなった乗客12人全員が前途ある学生であることがやりきれない

▼同じく娘を失った母親(52)は通夜で「やり残したことはなかったと思います。たくさんの人に愛され幸せでした」と気丈に振る舞った。そして「学生が格安ツアーを選ぶ感覚は間違っていない。娘たちの死を無駄にせず、安全でない会社では駄目だと考える機会になってほしい」と願う

▼名が知られていない中小の旅行会社とバス会社は国の基準違反の疑いがある低価格商品で勝負し、その格安ツアーを懐が寂しい学生が買う。そこで深夜働くのは60歳前後の運転手という構図は、いびつな貸し切りバス業界と高齢化社会を映す

▼その中で抜け落ちていたのは最も大事な「安全」。世の常である学生の「貧乏旅行」を担保する、それが母の願いにも通じる。(与那嶺一枝)