約9850万円-。昨年、県内で起きた特殊詐欺の被害総額である。全国では前年比で6年ぶりに減少したが、400億円台の深刻な状況が続いている

▼市役所や税務署など公的機関の職員を名乗り、保険金の払い戻しがあるなどと、うその話でお金をだまし取られる還付金詐欺などだ

▼一方、詐欺被害者が自責の念や周囲の非難に苦しむケースも増えているという(2日付25面)。中には家族に責められ、被害と二重苦で自ら命を絶った例も。「だまされる方が悪い」という風潮では詐欺はなくならないだろう。被害者ケアも急務だ

▼「高齢者を騙(だま)して金を奪う完璧なロジックが完成している」。高齢者を狙う詐欺組織の現場を追った「老人喰い」(ちくま新書)の著者・鈴木大介氏は、詐欺が繰り返される現状をこう説明する

▼対象者を緻密に徹底的に調べ、高いモチベーションを持ち、いかにだまし取るかを訓練し習得する。貧困世帯出身や就職難にあえいだ若者なども含まれるという。鈴木氏は「階層社会」に刃を向ける構図も指摘する

▼詐欺はまぎれもなく犯罪で、許されるものではない。ただ、こうした集団が身近に存在する社会と詐欺が生まれる背景を直視しなければ、被害はなくならないだろう。巧妙化する手口や手法に加え、その実態を知ることが防止への近道といえる。(赤嶺由紀子)