卒業シーズン。就職、転職、進学、人事異動など悲喜こもごもの場面に出合う。そんな3月は明るい春の気配を感じつつ、どことなくもの悲しさも覚える季節だ

 ▼先日、先輩の退職激励会におじゃました。仕事を越えてプライベートでもスポーツを楽しませてもらい、時には時事問題や基地問題などで侃々諤々(かんかんがくがく)やった。頼れる人柄に仲間が集い、交流の輪は広がった

 ▼「60歳手前で倒れてよかった。たばこも酒もやめたから、これからは健康でいられる」。笑顔であいさつしたのは社会人一年生の長女。脳疾患で倒れ、右半身と言語の障がいが残りリハビリに励む父親に代わって

 ▼卒業は、同時に何かが始まる一歩でもある。珊瑚舎(さんごしゃ)スコーレ夜間中学を卒業した77歳の女性の言葉にその思いを強くした。「勉強したことで手紙がかけるようになった。私だってできる、と思うようになった」(15日付社会面)

 ▼たゆまぬ努力があったはずだ。そして、挑戦する女性の背中を押す周囲の力も大きかっただろう。言葉を話す-。新たな目標へ歩き始めた先輩と家族の姿と重なった

 ▼作家の山口瞳さんは卒業にちなんだコラムで「在学中でも、卒業式の日でも、卒業の後も、おたがいに『声をかけあう』のが大切」と説く。出会ったつながりをいつまでも大事にしていくことが一番の卒業祝いかもしれない。(赤嶺由紀子)