「ミャンマー国軍は、ここ浜松から始まった」。2014年に来日した国軍総司令官は語った。「建国の父」アウン・サン将軍が戦前の一時期潜伏し、英国との独立闘争に備えた
▼将軍は日本軍と共に英軍をミャンマーから追い出すが、日本も独立の約束を守らず軍政を敷いた。そこで日本に対しても蜂起し、戦後の独立に道筋を付けた。両国間には愛憎相半ばする深い縁がある
▼将軍の長女、アウン・サン・スー・チー氏主導の新政権が発足した。父が築いた軍に弾圧され約15年に及ぶ軟禁を経験しながら、ついに民主的な政権交代を実現した
▼憲法上、英国籍の息子を持つスー・チー氏は大統領になれない。事実上の狙い撃ちだ。それにしても、選挙後の言動は少しおかしい。「(新大統領には)権威も権限もない」「全て私が決める」。今年に入ってからは取材にも応じない
▼強大な権限を持つ軍を譲歩に追い込んだのは、問答無用の実力行使ではなく民主主義の理想が持つ説得力だった。スー・チー氏自身が掲げた価値に従えば、法秩序の破壊はできないはずだ
▼そして有権者は、投票で誕生させた権力を監視する義務を負う。たとえノーベル平和賞受賞者でも、任を果たせなかったり、暴走したりすれば交代させる必要がある。民主主義は終わらない闘いだ、とつくづく感じる。(阿部岳)