黒がいつの間にか白いことになっている。そんな歴史塗り替えの現場を歩いてみた。東京・世田谷の烏山(からすやま)神社。シイの大木4本が境内に影を落とす
▼木のことは「九月、東京の路上で」(加藤直樹著、ころから刊)に詳しい。1923年の関東大震災直後、「朝鮮人が襲撃に来る」などとデマが広がり、この神社の近くでも自警団が朝鮮人を虐殺した
▼木は事件を受けて周辺住民が植えた。ただし被害者を弔うためではなく、殺人罪で起訴された加害者をねぎらうために。そして、地元の記録は「誰がどうしたなど絶対に問うてはならない」と真相にふたをした
▼暗黙の総意のうちに、事実は美しい物語に置き換えられた。役所の刊行物に、植樹は朝鮮人のためだったと書かれた。私が会った地元の女性もそう聞かされていて、本を見せると「みんな不利なことは言わない。ねじれていくものですね」と驚いた
▼6月の大阪北部地震の後も、ネット上でデマを流す者がいた。朝日新聞が書いた。「関東大震災でも、同様のデマにより朝鮮人らが殺害される事件が起きたとされる」
▼末尾の「とされる」に現在進行形の危機をみる。朝鮮人虐殺は証拠も多く歴史の事実として確定しているのに、伝聞表現に逃げた。あいまいさが、歴史修正の隙をつくる。事実は何度でも確かめていく必要がある。(阿部岳)


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