タイムス×クロス コラム

 2018沖縄県知事選 「辺野古隠し」の自公、展望示せぬオール沖縄

2018年7月9日 21:01
屋良 朝博
屋良 朝博(やら ともひろ)
フリージャーナリスト

1962年北谷町生まれ。フィリピン大学を卒業後、沖縄タイムス社で基地問題担当、東京支社、論説委員、社会部長などを務め2012年6月退社。「砂上の同盟」で平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞。沖縄国際大学非常勤講師。新外交イニシアティブ評議員。

海兵隊「移転」決議を伝える沖縄タイムス

 公明県本は辺野古埋め立て反対を貫いているので、知事選でも自民候補は「海兵隊の県外・国外移転」を政策に盛り込むだろう。佐喜真氏が出馬した場合、辺野古について仮に「選択肢の一つだ」と認めながら、自公協力の建前で「海兵隊県外・国外移転」を政策に紛れ込ませるなら、羊頭狗肉のそしりを免れない。

 他方、辺野古反対の訴えだけでは有権者に響かないことをオール沖縄などは名護市長選挙で痛感したはずだ。日々工事が進む実態を見せつけられながら、阻止できないもどかしさから、厭戦気分が広がる。反対する理屈と合理性を政策に落とし込めるかどうかが問われるが、議論を詰めきれていない。

 それは翁長陣営のアキレス腱でもある。県議会が海兵隊の県外・国外移転を決議したものの、翁長県政は政策に掲げていないのだ。翁長知事が「海兵隊撤退」を口にしたのは昨年、二十歳の女性が米軍属に殺害された事件への抗議集会で壇上に立った時が最初であり、その後は封印している。翁長氏を支持する保守地盤と革新政党が「オール沖縄」に集う合言葉は「腹八分」。立場の違う集団がそれぞれの主張を抑えながら大同小異に徹する反面、具体的な政策をまとめるのが難しい。このため、「辺野古埋め立てを止めると普天間はそのまま動かない」という政府の指摘に適切に答えきれていない。

 海兵隊の撤退を主張しないなら、普天間の危険性を除去するには県内移転を模索するしかないし、翁長知事の公約もそれを否定していない。知事公約は①辺野古埋め立て阻止②オスプレイ配備撤回③地位協定改定-だ。オスプレイ配備を拒否すると在沖海兵隊は機能しないため、部隊全体の県外・国外移転が前提となるはずだ。しかし海兵隊撤退に言及しない翁長知事の公約にも自民党同様に大きな欠陥がある。

 知事は辺野古に代わる独自案の検討を断念したため、基地問題解決の未来図を描くのは難しくなった。辺野古を阻止する策として政府との裁判闘争を構えるが、勝機を見いだすのは難しいといわれる。さらにすい臓がんの術後の健康問題も大きな不安材料であり、2期目はまさに鬼門となりそうだ。

 海兵隊の県外・国外移転を公約しながら、選挙戦術として辺野古埋め立ての賛否は明きらかにしない自公候補。民意を背に埋め立て反対を主張しながら将来ビジョンにつなげられないオール沖縄陣営。双方とも沖縄の基地問題についてグランドデザインを描ききれないまま、個別の基地対応に視界を狭められているのが現状だ。双方とも政策論を避けて組織票の争いに終わるなら、有権者数で最も多い無党派層は行き場を失う。 

 佐喜真宜野湾市長と自民公認を競う構えの安里繁信氏。かつて日本青年会議所の会頭を務めただけに弁も立つはずだが、辺野古問題には歯切れが悪い。

 「どちらかと究極的に問われれば、(埋め立て)反対と答える。しかし、法治国家の日本国では司法に最後の判断を委ねる。その答えにどう向き合うか、がリアリズムを追求する上で大切ではないか。司法の結果が出るまで待つことが正しい判断なのかなと受け止めている」

 心情的には反対らしい。でも渡具知市長と同様に裁判の行方を見守りたいという。なぜ本心を封印して司法に判断を預けるのだろうか。日本の裁判所は元来、米軍基地問題は高度な政治性を有する統治行為と解釈し、司法判断を示さない。そんな物言わない司法に従うなら、嘉手納飛行場や普天間飛行場の爆音訴訟で裁判所が夜間飛行の差し止め請求を却下し続ける現状も受け入れなくてはならない。沖縄の現状で「訴訟を見守る」という言い方は「責任放棄」と同義だろう。

 沖縄問題はつまりNIMBY(ニンビー、Not In My Back Yard=私の裏庭はやめてくれ)である。ゴミ焼却施設などの必要性を認めながらも迷惑施設なので近所への立地を嫌う社会現象を指す言葉だ。安倍総理もこれを認め、今年2月の衆院予算委員会で「移設先となる本土の理解を得られないなど、さまざまな事情で(沖縄基地問題は)目に見える成果が出なかった」と答弁している。安倍首相はオスプレイの飛行訓練の一部を佐賀空港へ移転する考えだったが、地元の反対で頓挫した。

 同様に小泉純一郎元首相も「総論賛成・各論反対で、沖縄県の負担を軽減するのはみんな賛成だが、どこに持っていくかとなると、みんな反対する。平和と安全の恩恵と、それに見合う負担をどこが負うかだ」と語った(2005年11月11日、全国知事会)。沖縄返還の日米交渉や1995年の少女暴行事件、2006年と12年の米軍再編などことあるごとに在沖米軍の本土移転を米側は提案している。拒んだのはいつも日本だ。

 仲里利信衆院議員(当時)は昨年、海兵隊の沖縄駐留は米政府の考えなのか、それとも日本政府の判断なのかを質問主意書で問うた。沖縄に基地を集中させるのが米国の意思なのか、それとも日本の要望なのかを明らかにする重要な質問だが、政府は一切答えなかった。政府の答弁書(2017年6月20日)は「ハワイや米本国に比して東アジアに近い地理的優位性を有している」とはぐらかすだけだった。

 そこに大きな嘘が潜んでいる。森友・加計問題で官僚の虚偽答弁、文書改ざん、そして官僚による忖度(そんたく)が安倍政権を揺るがしているが、防衛官僚が答弁書に書く「地理的優位性」についても目を凝らしてみるべきだ。即応力を誇る米海兵隊が沖縄でなければ仕事しません、などと泣き言をいうはずもない。基地を嫌がる本土のニンビーを隠蔽する方便として行政は根拠のない地理的優位論をこねくり回す。

 ことほど左様にこの国家の司法、立法、行政ともそろって沖縄問題に向き合おうとしない。この不平等に対し沖縄の政治家なら「沖縄ファースト」の政策を提示し、有権者に判断を委ねるのが筋だろう。仮にも沖縄県知事になろうとする者が、ニンビーの押し付けに物言いもせず、基地問題で非力な司法に下駄を預けるのは見識が疑われる。

 沖縄問題に詳しい関西大学の高作正博教授(憲法学)は「政策で選挙を戦うという民主主義の本質から逸脱すると、選挙結果に現れるはずの“民意”がさまよう。反対派と争点化を避ける候補の対立、という構図ではなく、辺野古新基地建設の是非を示したい有権者(賛否両者)とその有権者に選択肢を示すべき候補者という構図で捉えるべきではないか」と指摘する。

 有権者に選択肢を与えてこそ民意を政治に反映させる唯一の手段だということだろう。いまや反対論だけでは有権者の心に響かない時代だ。沖縄の置かれた現状から目をそらさず、現実的な政策を模索すべきだ。

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