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[読書]宇田智子著「市場のことば、本の声」 スモール・トークの魅力

2018年9月9日 06:00

 那覇へ行くと必ず牧志の市場をのぞく。公設市場の八百屋さんが並ぶあたりにある小さなコーヒー屋さんでコーヒーを飲み、それから古本屋さんの「ウララ」で本を選んで宅配便で自宅へ送ってもらう。沖縄の地域出版物の豊かさに目を見張るのもいつものことだ。

市場のことば、本の声(晶文社・1728円)

 送り状を書きながら、一言二言、言葉を交わすのが楽しい。宇田智子「市場のことば、本の声」は小さな古本屋さん「ウララ」で宇田さんとお話をしている時のことがよみがえってくる。

 著者の耳に聞こえてくる市場の声もこの本にスケッチされている。市場のざわめきを手に取り、目で見るかのようだ。

 雑談のことを英語でスモール・トークと言うのだそうだ。「市場のことば、本の声」には市場を行き交う人のたくさんのスモール・トークが詰まっている。

 「本屋と映画館の話にはとくに思いいれを感じる。あの本屋でこの本を買った、あの映画館でこの映画を観たという記憶がみんなはっきりしていて、そこに通って長い時間をすごし、大事なものにたくさん出会ったことがよくわかる。その場所がなくなっても、ずっと覚えている」

 「地元の人」の一節だ。とても残念なことだが、本屋さんも映画館も現在では閉店、閉館が記憶の中にしか存在しなくなった地域も多い。市場もまた大型のショッピングモールなどに建て替えられて消えて行くものの一つなのかもしれない。公設市場建て替えの話も「ウララ」で送り状を書きながら聞いた。本の表紙に蛇が描かれているのを見て、エラブ海蛇が市場に並んでいた時代を思い出した。その頃は薫製の香りが市場にあふれていた。スモール・トークは歴史書に書かれることはめったにない。が、スモール・トークの波が大きな流れとなって歴史を作って行く。

 この本はスモール・トークの魅力にあふれた本だ。ざわめきの中から生まれてくるものに触れているような感じが心地よい。(中沢けい・作家)

 【著者プロフィール】うだ・ともこ 1980年神奈川県生まれ。ジュンク堂書店入社後、池袋本店、那覇店を経て那覇市の第一牧志公設市場向かいに「市場の古本屋ウララ」開店。著書に「本屋になりたい-この島の本を売る」など。

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