熱くなりすぎず、弱気にはならず。スポーツは最後まで平常心を貫けるかが勝敗を分ける。全米オープン女子シングルスで優勝し、日本テニス史上初の快挙を達成した大坂なおみ選手は心の強さが際立っていた
▼憧れのセリーナ・ウィリアムズ選手にも臆せず、強烈なサーブや広角と緩急を織り交ぜた返球でペースをかき乱した。セリーナ選手の審判への抗議で会場は異様な雰囲気になったが、動じずに勝ち切ったメンタルがすごい
▼父はハイチ、母は根室市出身。3歳で渡米したため日本語は達者ではない。3月にツアー大会を初制覇したとき、一部ネット上では「日本人じゃない」旨の差別的文言が飛び交った
▼祖父の鉄夫さんが報道陣の取材に応じ、孫への思いを語ったのは優勝から10日後。のちにテレビで「(会見を開いたのは)日本にルーツがあると知ってほしかったから」と、孫への誹謗(ひぼう)中傷が耐えられなかった心境を明かした
▼今回の快挙にも中傷はなくならない。2年後に五輪を開く、この国の現実だ。一部で広がる偏狭な日本人純血思考には、社会を崩壊させる危険性が潜む。食い止めなければ五輪開催の資格はない
▼コート上の戦いぶりとは裏腹に素顔の大坂選手は天真らんまん。世界を股に掛け、天衣無縫に勝ち進む。その姿はかっこいいと、子どもたちに感じてほしい。(磯野直)