「御馳走はでるのか?」「大根汁ならある!」。思わず声に出して読んでいた。

ボーダーインク・1836円

 史実に基づいた戯曲が持つ圧倒的なコトバの力。沖縄戦後史の重要な局面を描いた戯曲3編が、小説2編とともに収録された作品集。2006年出版の小説集「監禁」から12年ぶり。「思い出したくない。しかし記憶せねばならない」。沖縄が抱える矛盾を30年来描いてきた山城氏。「記憶に苦しむこと」を小説に、「記憶せねばならないこと」を戯曲にと、主題に応じて表現スタイルを綿密に書き分けた。

 沖縄戦への体験も共感も継承もできない戦後生まれの私にとって、記憶を風化させない最後の砦(とりで)は、言葉を通しての想像のみ。64年前の沖縄刑務所暴動事件を描いた戯曲「北極星(にぃぬふぁぶし)」でのシーン。演劇大会を企(たくら)む受刑者のセリフをまねた瞬間「ここから始めることができる」とノドをさすった。

 刑務所での瀬長亀次郎、強制収容所での帰米画家・小橋川秀男、ガジュマルに2年間隠れた日本兵。3編の戯曲では、権力の下で引き裂かれた人々が対話によって解決を見いだす。用意された結果に翻弄(ほんろう)されてばかりいる沖縄、対話の余地なく案件は通り過ぎる。血の通った声たちがジタバタと実を結びゆくさまに、「風はここから吹く」と、希望を植え付ける作家の企みに酔いたい。

 小説2作では、記憶をきっかけに人生が暗転する主人公を描く。「パラオ移民の残留孤児」「牧港米軍住宅のハウスメイド」という新しい題材で女性の内面を見つめた。新聞記者であった山城の執拗(しつよう)な描写が白昼夢を誘い、小さなトゲを読者に残す。

 装丁には北極星を表す銀色インクが1点落とされ、カバー裏には美術家・山城知佳子の写真作品。巻末にある2万字もの戦後史解説は、琉球・沖縄文学研究の仲程昌徳氏が担う。

 役者はそろった。「幕がないぞ!」「幕は自分の頭の中に作れ!」「しーっ、静かに!」(親川哲・情報誌出版社勤務)

 やましろ・たつお 1936年沖縄生まれ。新聞記者などを経て小説、戯曲を執筆。1998年「窪森」で第24回新沖縄文学賞。戯曲に「北極星」「命の樹ガジュマル」。2006年、初の小説集「監禁」