「平成の歌姫」と称され、圧倒的なパフォーマンスで人々を魅了してきた、県出身の歌手、安室奈美恵さんがマイクを置く。
「またね」と言えない寂しさは胸にしまい、最後は笑顔で送り出したい。「25年間ありがとう」
安室さんは引退前日の15日、宜野湾市で開催された音楽イベントに出演し最後のライブを行った。歌手としてのスタート地点を最後の場に選んだのだ。
会場だけでなく、周辺にはチケット抽選にもれた大勢のファンが、県外や海外からも集まった。
沖縄市で開かれている衣装などの展覧会、那覇市で開催中の新聞記事などの企画展にも長蛇の列ができた。
熱を帯びる「安室フィーバー」が映し出すのは、少しでも近くで最後を見届け、思い出を振り返りたいというファンの熱い気持ちだ。人生の節目節目で彼女の歌に励まされ、勇気付けられたという人のなんと多いことか。
挑戦する人の背中を押す「Chase the Chance」、どこへでも続く道があることを教えてくれた「Don't wanna cry」、私があなたのヒーローになると歌った「Hero」、母として思いがあふれ出る「Just You and I」。
歌とダンスを追求しコンサートに情熱を注ぐ姿勢はカッコよく、結婚、出産、離婚といったライフステージで「前へ、前へ」と進む姿は女性の自立像とも重なった。
常に時代のアイコンであり続けた。
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多くの人材を芸能界へ輩出した沖縄アクターズスクール出身で復帰後世代の安室さんは、一世代前の県出身歌手と違って「沖縄」を背負ってはいない。
文化の独自性に光が当たった「沖縄ブーム」の中で活躍した歌手でもあり、気負いもあまり感じられなかった。
ただ本名を芸名として活躍していることに、県民は親近感を抱いていた。
今年5月、県民に夢と感動を与えた功績で県民栄誉賞を受けた際、感極まって涙を流した姿が印象に残る。
故郷での涙についてテレビのインタビューで「沖縄に帰るといろんな感情が出てしまう。なるべく帰らずに気を張ってやってきた。頑張って本当によかった。初めて褒められたかな」と語った。
浮き沈みの激しい世界で輝きを放ち続けたのは、自らに厳しかったからだろう。
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最後となったライブもいつものように「皆さん、本当にありがとうございました」と笑顔で締めくくった。贈る言葉は「お疲れさま」だ。
歌手は引退してもファンの胸に歌は響き続ける。40歳の安室さんにとっては第二の人生の始まりである。
県民栄誉賞の記念品として贈られた房指輪は、琉球王国時代から受け継がれる伝統工芸品だ。七つある房の一つ一つに「末広がりの福」など女性の幸せを願う思いが込められている。
最高に楽しく豊かな人生を歩んでほしい。