右顧左眄(うこさべん)せず、自分の信ずるところを貫く。それでいて素顔は愛嬌たっぷりで、どこか憎めない。田中角栄元首相の秘書を務めた早坂茂三氏は著書「宰相の器」で、田中や吉田茂、池田勇人ら尊敬する歴代首相の共通点をこう評す

▼嫉妬やねたみが渦巻く政治闘争。権力の座をつかむには、きれいごとだけでは済まないが「人間的な魅力に富んだ有能な指導者たちが懐かしい」と書く

▼20日の自民党総裁選で争った安倍晋三、石破茂両氏は人々の目にどう映っただろうか。北海道地震で選挙活動を一時控えたにせよ、直接討論の場は少なかった

▼むしろ現職閣僚や地方議員が「石破氏応援なら辞表を書け」「将来に差し障る」と迫られた恫喝まがいの集票が話題に。「昔はもっと激しかった」(安倍氏)という反論を、草葉の陰から見守る早坂氏はどう聞いたか

▼選挙期間中、ついぞ「沖縄」は論点にならなかった。米軍基地偏重の本質を突いたかに思えた石破氏の論考は公式サイトから突如消えた

▼「国家経営の在り方を軸にした路線闘争ではなく、派閥の陣取り合戦。日本はなおムラ社会の特性を色濃く投影している」。早坂氏が描写したかつての権力争いの様相は、時を超えて今も通じる。安全保障の根幹であるはずの基地政策を問うことなく、総裁選は沖縄を素通りしていった。(西江昭吾)