古くからの一戸建てが密集する東京・下町の住宅街。車1台が入るほどの細い路地を歩くと、そこにはまだ看板が残っていた。一見どこにでもあるような2階建て。毛筆体の「貴乃花部屋」の字は、寂しげにかすれていた

▼弟子が受けた傷害事件を発端に日本相撲協会と確執が深まり、すったもんだのあげく退職した貴乃花親方(46)。14年間率いた部屋は1日、消滅した

▼相撲部屋なんて、どこの街にもあるもんじゃない。ある日突然なくなり、見守ってきた周辺住民はどう思うのか。地方紙の人間として「地域」の視点が気になり、界隈(かいわい)を訪ねてみた

▼きっと名残惜しむ声が聞けるだろう。そんな想像を巡らせていたら、完全に肩透かしを食らった。「地域との交流が全くなかったから」。部屋の近くで長く商店を構える男性店主は苦虫をかみつぶす

▼部屋が今の場所に移ってきたのは2年前。「最初は期待したけどね。大横綱だった親方は孤高の存在で芸能人みたいなもの。正直、地域に溶け込んでなかった」。口調はさばさばしたものだった

▼ひそかに一門への所属義務を課したやり方もどうかと思うが、相撲協会の「包囲網」に追い込まれ、四面楚歌になった貴乃花親方。孤立していく様は地域の人々の話と重なる。歴史に名を残す平成の大横綱。ほかにやりようはなかったのか。(西江昭吾)