今年のノーベル平和賞は、紛争下の性暴力に、勇気を持って立ち向かう2人に授与することが決まった。コンゴ(旧ザイール)で民兵から性暴力を受けた被害女性の治療に尽力してきた産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏(63)と、過激派組織「イスラム国」(IS)の拉致から生還し、性暴力根絶を訴えるイラク人女性ナディア・ムラド氏(25)だ。

 今年は戦時の性暴力を非難する国連安全保障理事会決議の採択から10年の節目に当たる。ノーベル賞委員会は、2人が身の危険を顧みず、戦争犯罪と闘い、被害者のために正義を追求したと授賞理由を明らかにした。女性たちの苦しみに目を向けさせる意義ある授賞である。

 コンゴ東部で鉱山資源を巡り1990年代から政府軍と反政府武装勢力が戦闘。「世界のレイプの中心地」「少女や女性にとって世界最悪の場所」といわれるほどだ。

 ムクウェゲ氏は99年、コンゴ東部の主要都市ブカブでパンジ病院を設立。性暴力被害者を5万人以上受け入れてきた。手術だけでなく、深く傷ついた女性のケアや生活面の支援も続ける。武装集団に襲われ亡命したが、地元女性らに心を動かされ帰国した。

 ムラド氏はISの迫害を受けたイラク北部のクルド民族少数派のヤジド教徒である。2014年にISが同派を襲撃。家族を殺され、奴隷として拘束された。脱出後、ドイツを拠点に、筆舌に尽くしがたい自らの体験を証言。ISの蛮行を世界に告発し、裁くことを訴えている。

 性暴力の根絶に向けて日本を含む国際社会の強い取り組みを求めた授賞でもある。

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 ノーベル賞委員会は「戦争の武器として性暴力が使われるのは終わらせようと努力してきた」と両氏をたたえた。

 性暴力は強姦(ごうかん)や性奴隷、強制売春などが含まれ、国際人道法で禁止された戦争犯罪である。「戦争の武器」と呼ばれるのは、被害者と家族を苦しめ、地域社会に恐怖を植え付けることによって、支配するからである。

 コンゴやイラクだけではない。ISの支配下にあったシリア、中央アフリカ、マリなどでも多発している。行方不明者もなお多数に上る。

 ミャンマーでもイスラム教徒少数民族ロヒンギャの女性らへの性暴力が伝えられる。

 国連総会は15年に6月19日を「紛争下の性暴力撲滅国際デー」に制定したが、紛争地で女性の人権を踏みにじる性暴力はやまず、根絶への道は遠いのが現実だ。

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 戦時中の旧日本軍の「従軍慰安婦」制度も女性に対する重大な人権侵害である。

 沖縄戦から米軍施政権下、復帰を経ても米兵による性暴力が後を絶たない。紛争地でもないのに起きるのは軍隊が性暴力を本質的に内包しているからと言わざるを得ない。

 加害者の責任は問われなければならない。日本は被害者支援で協力できるだろう。

 昨年来、性被害を告発する「#MeToo」(「私も」の意)運動が世界で広がっている。紛争下でも、日常でも、性暴力を許さない社会をつくらなければならない。